小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
建築用塗料ではエマルション樹脂塗料のような水性塗料が以前から存在し、自動車用塗料でも以前から存在する電着塗料に加えて、中塗り塗料や上塗りベースコート塗料においても水性化が急速に進行しました。また、中国のGB(Guo jia Biao zhun:中国国家標準規格)による規制発動を契機に、一般工業用塗料でも水性化が要望されています。
水を塗料用溶剤として使用すると、「ハジキやヘコミが生じやすい。」、「乾燥が遅く、タレやワキが生じやすい。」ということはご存じの通りです。
また、ライン塗装の場合、次塗装工程前のプレヒート(フラッシング)が必要になるなど、エネルギー消費量が増え、「塗装工程からのVOC排出量は減ったものの、CO2排出量は増加した。」ということにもなりかねません。
今回は、上記の諸問題の原因となる、一般的な有機溶剤と比較して水が特異的に異なる性質について解説し、溶剤として使用する上での注意点を再確認したいと思います。
液体が液体として存続するためには、分子同士がお互いに引き合っている必要があります。さもなければ、水分子は気体状態になり勝手に飛び回ることになります。この、お互いに引き合っている分子間の力を「分子間力」と呼びます。また、分子間力の元になっている引力エネルギーを「凝集エネルギー」と言います。
液体を構成する分子の分子間力には、「ファンデルワールス力」「双極子-双極子間力」「水素結合力」があるとされていますが、水の場合、「水素結合力」の占める割合が大きいという特徴があります。水素結合力に対応する凝集エネルギーは10~40KJ/molとされており、炭化水素系分子の分子間力の主体であるファンデルワールス力は1KJ/mol程度ですから、水の分子間力は非常に大きいことが理解できます。
蒸発させるためには、分子間力を断ち切る必要がありますので、そのためのエネルギーも大きくなります。従って、沸点が高く、蒸発潜熱も大きな値を示します。
表面張力や溶解性パラメータ(SP)値も凝集エネルギーに依存するので、表面張力やSP値も他の有機溶剤に比べ、格段に大きな値となります。
上記の凝集エネルギーだけでしたら、エタノールなどの低級アルコールも水素結合が生じるので、ある程度大きな値を示します。水は、大きな凝集エネルギーに加えて、もう1つ、規則正しい分子配置という他の溶剤には見られない特徴を持っています。
水は液体状態であっても、図1に示すように、1つの水分子が正四面体の中心に位置し、他の分子が四つの頂点を占める、という規則正しい構造を取っています。ただし、この構造が完全に固定されている訳ではなく、それぞれの分子は熱運動で揺らいでいるため、図1の構造の部分と、乱れた構造の部分が混在し、温度が高くなるほど乱れた構造の部分が増加するとされています。
固体(氷)になると、この揺らぎがなくなるため、分子間距離を液体状態よりも少し拡げる必要があります。結果として、固体(氷)が液体(水)よりも密度が低くなって浮くという、他の溶剤には見られない現象が生じます。
上述の規則正しい構造を取っている水の中に、水分子と仲の悪い疎水性の物質が入ってくると、その周りだけ連続する正四面体の構造を少しゆがめて“かご”のようなスペースを作り、その中に疎水性物質を収納しようとします。この現象を「疎水性水和」と呼びます。
このような構造を取ることは、エントロピー的に不利ですので、そのような箇所をできるだけ少なくしようと、疎水性の物質を寄せ集め、1カ所に押し込もうとします。まるで疎水性物質同士が引き合っているように見えるので、これを「疎水性相互作用」と呼びます。水の中だけで生じる相互作用です。
表1に示すように、水は有機溶剤(トルエンを代表として例示)と種々の性質が大幅に異なりますので、塗料配合設計や塗装設計では、考え方や材料選択を全くと言ってよい程、変える必要があります。
水性塗料の配合成分は、水溶性、水分散性など、水に対する親和性を示すものを選択する必要があります。ただし、塗膜としては耐水性が必要ですので、親水性物質の量を極小化したり、親水部分の構造が疎水性に変化するようにしたりする仕組みが必要です。
また、疎水性相互作用は上述のように水が存在して初めて生じますので、塗装後の乾燥過程で水が蒸発してなくなってしまうと、相互作用は消滅してしまいます。
顔料分散剤も顔料へは疎水性相互作用で吸着し、塗料状態では顔料の分散安定化が保たれています。塗膜乾燥過程で、水がなくなる前に、架橋反応が生じるか、増粘剤の作用などでビヒクルの粘度が十分に上昇していないと、分散剤が顔料から脱着してしまい、顔料凝集によるツヤビケ等の不具合を生じてしまいます。
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