4.塗料が固まるメカニズム ④粉体塗料用のバインダーシステム
2026/09/03小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
粉体塗料は粒子径が20μm~50μmの粒子からなる粉体状の塗料で、溶剤を全く含みません。基本的には1つ1つの粒子がバインダー樹脂と硬化剤、顔料、添加剤から構成されます。被塗物に静電引力等で付着した粉体塗料粒子を、被塗物上で加熱して溶融付着させて連続膜とするので、被塗物は金属など耐熱性のあるものに限られます。厚膜塗装が可能で強じんな塗膜が形成できますが、その反面薄膜塗装は困難で、レベリング不足による塗膜外観不良が生じやすいという欠点があります。被塗物に塗着しなかった塗料粒子は、一般的に回収して再利用することが可能なので、塗着効率は非常に高くなります。
粉体塗料用として実用化されている主なバインダーシステムを表1に示します。
主剤樹脂は、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂などでが、常温では固体でないと粉体状態を保てないので、軟化温度が100℃以上のものが用いられます。製造時や塗装後の溶融・硬化温度を低くしようという試みはありますが、そのために塗料の流動が始まる軟化温度を低くすると、保管時の塗料粒子同士の融着(「ブロッキング」)が生じるので、顕著な低温化は進んでいません。
水酸基を含有するポリエステル樹脂と、硬化剤のブロックイソシアネートからなる粉体塗料は、ウレタン架橋塗膜が得られるので、高耐候性という長所はありますが、ブロック剤の解離温度の制約で硬化温度の低温化が困難です。また、解離したブロック罪によるヤニ・黄変の発生という問題もあります。
図1に示すβ-ヒドロキシアルキルアミド(HAA)とカルボキシル基末端のポリエステル樹脂の架橋反応を利用する粉体塗料は、低温硬化が可能でブロック剤の脱離も無く、耐候性も比較的良好です。
ただし、少量の水が反応生成物として生じるので、厚膜塗装時には発泡することがあります。また、同じカルボキシル基末端のポリエステル樹脂を図2に示すトリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)で硬化させる粉体塗料も存在します。
TGICは、耐候性などが良好であるだけでなくHAAと同様に低温硬化が可能でブロック剤によるヤニ・黄変が発生しないといったメリットがあります。一方、TGICには強い変異原性と皮膚刺激性があります。このため、日本国内では低温硬化型の粉体塗料の硬化剤としてHAAが使用されており、TGICはほとんど使用されません。
粉体塗料の製造法は、一般的な液体状塗料の製造方法とは異なります。まず、原材料のバインダー樹脂と硬化剤、顔料および添加剤は、全て粉体状やペレット状で供給されます。これらを乾式混合した後、「エクストルーダー」という装置を用いて樹脂や硬化剤を(硬化温度以下に)加熱して溶融させ混錬します。この操作で、各成分の均一混合と顔料の分散を行います。
液状塗料の製造では、顔料分散工程を顔料と必要最小限のビヒクル成分だけで行い、次の溶解工程で他のビヒクルや添加剤を混合して塗料としますが、粉体塗料では塗料成分の全量を一括して混錬します。
エクストルーダーより吐出された溶融状態の塗料は冷却・固化され、粗粉砕、微粉砕、分級、篩(ふるい)の各工程を経て、20μm~50μmの粉体塗料粒子となります。
表1に示したのは熱硬化性のバインダーシステムですが、塩化ビニル、ポリエチレン、ナイロンなどの熱可塑性樹脂も粉体塗料用樹脂として使用されます。
これらの熱可塑性粉体塗料は、表1の熱硬化性粉体塗料が噴霧塗装後に160℃~200℃で焼付硬化されるのに対し、予熱した被塗物を粉体塗料粒子が浮遊した流動槽に浸漬(しんせき)して付着させ、その後に220℃以上の高温で溶融させることで数100μmの超厚膜塗膜とします(架橋反応は生じません)。このような塗装方法を「流動浸漬法」と呼びます。
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