4月10日発表、経済産業省
中東情勢の緊迫化が、日本の塗装業界を未曾有の供給不安に陥れている。その根源は、化学品の基礎原料である「ナフサ」の調達構造にある 。日本が使用するナフサの約4割は「国内精製」だが、その原料となる原油の約9割を中東に依存しているため、実質的な中東依存度は極めて高い 。この構造は、原料の多角化が進む諸国と比較して日本の脆弱性を浮き彫りにしており、政府は現在、国家備蓄の放出や代替調達の加速といった緊急対策を講じている 。
日本の塗料市場がこれほどまでに地政学リスクに左右される理由は、ナフサ供給の「二重の中東依存」にある。国内で供給されるナフサの約4割は国内の製油所で原油を蒸留して生産される「国内精製ナフサ」だが、その元となる原油の約9割は中東からの輸入である 。これに直接輸入される中東産ナフサ(4割)を加えると、日本のナフサ供給の大部分が中東情勢に直結していることがわかる 。ナフサの世界市場(2023年)では中国が33%、欧州が13%の生産シェアを持ち、中東自体のシェアは16%にとどまるが、日本は調達の大部分を中東に委ねてきたため、物流要衝の混乱が化学産業の心臓部を直撃する構造となっている 。
この危機に対し、政府は石油・化学製品の安定供給に向けた方針を打ち出している。具体的には、5月上旬以降に国家備蓄原油を約20日分放出することを決定した 。これは代替調達の進展に合わせた第二弾の放出であり、ナフサを含め燃料油以外の用途にも供給を継続することで、少なくとも国内需要4カ月分(製品在庫含む)を確保する計画だ 。
また、米国や中南米等からの代替調達を通常の倍増(約90万kl/月相当)まで加速させ、中東依存からの脱却と供給路の多角化を急いでいる 。なお、実際に中東依存度が低い中国では、「中国では溶剤不足に陥っていない」とグローバル塗料メーカーは話す(4月上旬ヒアリング)。
では、業界の現状はどうか。塗料メーカーは、化学プラントから原料を買い付ける「調達側」であると同時に、現場へ製品を届ける「供給側」という2つの顔を持つ。今回の危機では、メーカー自身が原材料の確保に奔走する「調達難」に直面しながら、一方で顧客への責任を果たすべき「供給側」として、厳しい出荷制限をかけざるを得ない苦境に立たされている。
原材料価格が跳ね上がる中、自社でコストを吸収しきれず、供給責任と事業継続のバランスを取るために、異例のスピードで出荷制限や大幅な価格改定を打ち出さざるを得ないのが実情だ。
この「調達と供給」の混乱は、具体的な数字となって表れている。関西ペイントや日本ペイントグループなど大手各社ほか全塗料メーカーは、シンナー製品について昨年実績を上限とする出荷制限を敷きつつ、50%から100%という衝撃的な値上げに踏み切った。原料の調達環境が悪化する中、まずは構成成分がナフサに直結するシンナー類、続いて溶剤系塗料、さらには樹脂供給不安による水性塗料へと制限の波が広がっている。