1. 明石海峡大橋の概要
日本には河川が多く、橋梁技術は世界の模範になっている。
瀬戸の島々と四国・本州を陸路で結ぶ瀬戸大橋が実現したのは1988年(昭和63年)のことである。本州・四国連絡橋は六つの橋から成っており、道路・鉄道の併用橋で、道路部の長さ37.5kmある。度重なる台風や1995年の阪神・淡路大震災にも耐えている。海水、強風、振動など、最も過酷な条件下に置かれたこの橋を保護するのに塗料と塗装技術は欠かせないものになっている。
この実績は1998年に完成した明石海峡大橋(図1-11、以下、明石大橋)に引き継がれた。
まず、大型ケーソン(潜かん工法で固定される鋼鉄製の基礎構造物)や橋げた、塔などは各橋梁メーカーや造船所でブロックごとに建造、塗装され、海上をクレーン船で運ばれて架設された。
明石大橋は建設当時では世界最長の吊り橋であり、ケーブル架設の第一歩であるパイロットロープの渡海には世界で初めてヘリコプターが使用された。
図1-11に示す吊り橋の命綱であるメインケーブルの直径は1,122mmで、約6万トンの加重を支えることができる。(注6)
新設の場合、塗装は全て工場で行われる。明石大橋に適用された塗装仕様はC-4塗装系に準拠した表1-2に示す仕様(注6)であり、塗膜構成を図1-12に示す。組立加工前の鋼材にはさび止めのために無機ジンクリッチプライマーが塗装されるが、組立後にブラストで全面除去される。
その後、表1-2の第1層である無機ジンクリッチペイントが塗装され、Zn粒子の連結でZnメッキと同じ犠牲陽極作用を発揮させる。しかし、第1層のZn粒子の連結構造は空隙が多く、上塗りによるピンホール発生と塗膜強度欠損の心配がある。そこで、第2層のエポキシ樹脂塗料の役目は第1層のZn粒子の連結構造を強化することであり、第1層に含浸しやすいように希釈して使用される。第2層は第1層に含浸すれば良く、膜厚の増加を考慮しないから、ミストコートと呼ばれる。
第2層の上に、第3、第4層となる下塗りが2回、第5層となる中塗り、第6層となる上塗りが塗装され、全6回の塗装で,塗膜の厚さは最低で250μm以上になる。明石大橋では、下塗り、中塗りがエポキシ樹脂塗料で、上塗りにはふっ素樹脂塗料が採用され、上塗りにポリウレタン樹脂塗料が採用された瀬戸大橋よりも一段と耐候性が強化された。
2.明石大橋の塗装工事と塗料の使用量
工事期間は瀬戸大橋完成前の1986年より始まり、13年間をかけて行われた。塗装工事に関することは一般社団法人 日本橋梁・鋼構造物塗装技術協会が仕切り、積算資料としてまとめられた。資料から、塗装面積、塗料の標準使用量や塗料費用が分かる。
著者の興味ある点を抽出した結果を表1-3に示す。要点を示すと、明石大橋の外面にはC-4塗装系に準じた表1-2が適用された。塗料使用量1875tと塗料費用56.2億円から、塗料代金(平均単価)は、約\3000/kgと計算できる。

内面については、変性エポキシ樹脂塗料が3回塗られた。表1-3に示す標準使用量(g/m2/回)について見ると、外面では第1層(厚膜形無機ジンクの700 g/m2)から第6層(上塗りの140 g/m2)までの合計塗付量が1770 g/m2になる。同様に、内面のそれは1050 g/m2になる。
表中の数字で外面、内面の合計塗付量がそれぞれ200g/m2高くなっているのは、1次プライマーを加味しているからである。この塗料は工場で製造した構成部材を放置しておくときの防錆プライマーであり、本格的に塗装工事が始まるときにはブラスト処理で除かれてしまうので、ショッププライマーとも呼ばれている。このプライマーを除いて計算した内外面の合計塗料重量は1,664tと計算され、この40%程度の約660tが硬化塗膜として橋梁を覆っていることになるが、相当な重量である。
また、乾燥膜厚(計算値)は外面が6回塗りで250μm、内面は3回塗りで210μmであり、両面で約0.5mm厚くなる。実際には計算量よりも多くの塗料が使用されていると考えられるが、塗料単価に標準価格を使用すると、塗料費用は56.2億円となり、塗料使用量1875tから、塗料代金(平均単価)は約\3000/kgと計算できる。また、明石大橋の総工費は約5,000億円であるから、塗料費用は約1.1%になり、ほぼ妥当な値である。一般的に総工費の10%程度が塗装経費で、塗料経費はその10%程度になると言われている。
話は変わるが、表1-2に示す塗装仕様で気がかりな点は次の2点である。
(a) 無機ジンクのバインダーとして図1-13に示すエチルシリケートが使用され、湿気硬化で亜鉛粒子表面と橋かけ反応すると考えられる。エチルシリケートの反応性が判断しにくく、メーカーの仕様に従い、低湿度ならば2日間、常温乾燥させている。硬化度を現場でチェックし、安心して次の工程に進める手だてがほしい。

(b) 重防食塗装系ではミストコートに始まり、2液型エポキシ樹脂塗料の使用量が多くなる。エポキシ樹脂塗膜は耐光性が悪く、屋外に暴露すると劣化して、チョ-キング現象を呈する。そのためエポキシ樹脂塗料を使用する場合には表1-2に示すように塗装間隔を3 か月にしてはいけない。
C-4塗装系7)とC-5塗装系8)をそれぞれ表1-4、表1-5に示すが、エポキシ樹脂塗料の塗装間隔を最大10日間に規定している。なお、両者の塗装系の違いは下塗りのエポキシ樹脂塗料の塗り回数であり、C-5塗装系ではエポキシ樹脂塗料を1回で120μm塗布している。ただし、C-5塗装系を採用するときには、ミストコートの膨潤によってピンホールの発生が多くなるため、ミストコートの硬化を進める手だてが必要である。(注9)
〔参考文献〕*通し番号
坪田実:“図解入門塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム, p.22, 75 (2016)
坪田実:色材, Vol.91, No.8, p.282 (2018)
坪田実:“塗料・塗装の何でも質問講座”, モノタロウ, 4-11 (2022)
大澤悟:建材試験センター 建材試験情報 5月号(2014)
https://www.klook.com/ja/blog/tokyo-tower/より引用し、著者が加工して掲載
(注6) 中道敏彦, 坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, p.82-83, 日刊工業新聞社 (2008)
(注7) 日本道路協会:“鋼道路橋塗装便覧”, p.22-23、丸善(1990)
(注8) 日本道路協会:“鋼道路橋塗装・防食便覧”, p.Ⅱ-32、丸善(2005)
(注9) 奥俊治, 守屋進, 多木洋一:塗料の研究(関西ペイント), No.150 Oct. p.39-43 (2008)