応力腐食割れとは名前の通り、応力と腐食によって金属材料が割れる現象です。応力腐食割れの定義や分類については諸説ありますが、最も広く捉えると、オーステナイト系ステンレス鋼の粒界腐食割れ、鉄鋼の硝酸塩による割れ、アルカリ脆性(ぜいせい)割れ、水素脆性割れ、硫化物割れ、黄銅の時期割れなどが当てはまります。
材料が局部的に腐食されると表面欠陥のように小さな亀裂となり、応力集中を起こします。そして材料に応力が負荷されている状態が続くと、腐食された場所を起点にして最終的に材料全体に割れが起こる現象です。
応力腐食割れの分類として腐食が優先的に起こるタイプと、割れが優先的に起こるタイプに分ける場合があります。腐食が優先的なタイプとしてオーステナイト系ステンレス鋼の粒界腐食割れ、割れが優先的なタイプとして鉄鋼の水素脆性割れなどがあります。
なお、オーステナイト系ステンレス鋼の粒界腐食割れのような腐食が優先的なタイプのみを応力腐食割れと呼ぶ狭い捉え方もあります。
応力腐食割れでは材料、環境、応力という3つの条件が重なった時に発生すると言われています。応力腐食割れは英語でStress Corrosion Crackingというので、略して「SCC」と呼ぶこともあります。応力腐食割れは全ての金属に起こる現象ではありませんが、特定のステンレス鋼、アルミニウム合金、鉄鋼材料、黄銅などで起こる現象です。
応力腐食割れを起こす材料について「応力腐食割れの感受性が高い」と表現することもあります。表1に応力腐食割れを起こしやすい材料と環境について示します。
応力腐食割れに影響する腐食は全面腐食よりも局部腐食になります。局部腐食は孔食、すき間腐食、粒界腐食など材料の一部が腐食されるタイプの腐食です。このような局部腐食によって材料の一部が弱くなり、それが破壊の起点となります。
応力とは材料に直接的に負荷される応力の他に引張残留応力や溶接残留応力などもあります。応力的要因は材料ごとの違いは少なく、負荷される応力や残留応力が大きいほど割れが発生しやすくなります。
ステンレス鋼は普段は表面に不動態皮膜があるので腐食に強いですが、塩化物イオンに弱く、海水や塩水など塩化物イオンが多く存在する環境では局部腐食を起こしやすくなります。ステンレス鋼の腐食の特徴として、ある1カ所腐食されるとその場所が集中的に腐食されやすいです。その結果、孔食やすき間腐食などの局部腐食が起こります。
また、孔食やすき間腐食以外の局部腐食として粒界腐食があります。オーステナイト系ステンレス鋼を不適切に溶接したり熱処理するとクロム炭化物が析出する鋭敏化と呼ばれる現象がおこります。鋭敏化によってオーステナイト系ステンレス鋼が腐食されやすくなり粒界腐食が発生します。
このような腐食は表面の一部で起こります。ここに引張残留応力などの応力要因が加わると、粒界腐食や孔食部に応力が集中して応力腐食割れに発展していきます。
孔食から応力腐食割れが起こると粒内破壊になり、粒界腐食から応力腐食割れが起こると粒界に沿った粒界破壊になりやすいです。
アルミニウム合金はいろいろな合金系がありますが、強度を上げるため粒界にさまざまな化合物が析出しやすいです。この化合物がきっかけになり粒界腐食などの局部腐食が起こります。そして、応力が負荷されると応力腐食割れが起こります。ただし、全てのアルミニウム合金で応力腐食割れが起こるわけではありません。
アルミニウム合金のなかでも比較的高強度の合金に応力腐食割れが起こりやすいです。たとえば2000系、7000系の他に5000系のなかでもMg量3%以上の合金などが当てはまります。
鉄鋼材料の場合、応力腐食割れを起こす条件として苛性アルカリ(水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど)や硝酸塩があります。もともと鉄鋼はpH13程度までのアルカリ環境に腐食に強いですが、苛性アルカリはpH13以上の強アルカリです。そのような強アルカリでは鉄は腐食されます。
昔はボイラーの腐食防止に苛性アルカリが使用されていましたが、高温で苛性アルカリが濃縮されて強アルカリになり応力腐食割れを起こす事故が起こっていました。
黄銅は19世紀ごろに特定の時期に割れが起きたため、時期割れ、季節割れなどと呼ばれていました。これらは現在では応力腐食割れとして扱われます。黄銅などの銅合金はアンモニアが非常に有害な環境要因になります。