1. 東京タワーの新規塗装仕様
我が国の高度成長期と1964年開催の東京五輪とが合体し、1950年代から東京は活気づいていた。著者の思い出話で恐縮であるが、著者は1964年に、中3の修学旅行でオリンピック施設・東京タワー・羽田国際空港などを見学した。
富山県高岡市在住の子供達にとっては、東京で見るもの全てが感動の嵐であった。とりわけ、東京タワーは世界一高い電波塔だと知って、誇らしい気持ちになった。
当時は、舟木一男の歌う「高校3年生」、「修学旅行」が全盛で、良い時代に青春時代を過ごせたことに感謝している。
ところで、東京タワーは昭和33年の年末(1958年12月23日竣工)に完成した。2005年製作の映画「ALWAYS 3丁目の夕日」に建設中のタワーが度々出てきて、その度に修学旅行を思い出す。今回は胸がわくわくする東京タワーを取り上げる。
当時の大型構造物は現場施工が中心のため、塗装も組立てしながら、同時進行で行われていた。NHKの番組「プロジェクトX」で東京タワーの建設には技術の極意が注ぎ込まれたことを報じていた。その様子は図1-6に示す塗装仕様から伺い知ることできる。
図に示すタワーの部位H1-H14とH14-H27では素材が異なる。前者は鉄鋼で、後者は亜鉛めっき鋼である。低い部位の鉄鋼素材は工場でサンドブラスト後に鉛丹系さび止めが塗られ、乾燥後に搬入される。
現場では組立後に下地調整を行い、同じく鉛丹系さび止めペイントを塗ってからフタル酸樹脂系と表示されている合成樹脂調合ペイントSOPが2回塗りされる。H14以上の上部側は溶融亜鉛めっきができる大きさの部材のため、亜鉛めっきされた状態で現場に持ち込まれる。
現場での塗り回数は下部位、上部位とも同じである。このように綿密に防さび対策を行った塗装設計は工業塗装の原点である。
2 .東京タワーの塗替え仕様
東京タワーは表1-1に示すように、建設時から2013年までの55年間で10回、平均5年の周期で塗り替えられた。
塗替塗装仕様の基本的な考え方は、以下に示す東京タワーを管理する(株)竹中工務店
技術研究所の方針に従っている。4)
(1)高所作業ゆえ注意すべきことは、旧塗膜をかき落とさないこと。かき落とすと、塗膜がパラパラと下に落ちてしまい周囲を汚すため、これを避けたい。
(2)塗料を正常に刷毛塗りすると、塗料がしぶきになって落ちるから、周囲を汚す。そのため、図1-7に示すようにペタペタと重ね塗りした。1例として、第7回目まで塗り替えられた塗膜断面の様子を図1-8に示す。この写真によると、1回当たり、約100μmの膜厚が付与されていることが分かる。
図1-6を見る限り、下地のさび止めは25μmであり、中塗り、上塗りは各20μmである。この通りに塗り替えたら、1回ごとに、せいぜい50-65μmが付与されることになるが、なぜ100μmになるのであろうか。それは、ペタペタと重ね塗りしたため、厚膜になったのである。建設時には正常に刷毛塗りしたり、ローラー塗りをしたであろうが、塗替え時は全て刷毛塗りで、ペタペタとたたき塗りされた。
(3)下地によってプライマーの効果が異なった。亜鉛めっき鋼では図1-9に示すように、プライマー界面で層間はく離が生じた。そこで、1回目の塗替え時からジンククロメート系に代えて、鉛酸カルシウムさび止めプライマーが使用された。2回目以降は界面はく離が起きなかったようである。
一方、鉄鋼面ではプライマーに起因する割れ、はがれが認められず、鉛丹系さび止めプライマーは改良されながら継続して使用された。表1-1に示す下地調製とさび止め(補修塗り)は旧塗膜の劣化部のみにとどめ、健全部の塗膜には下地調製なしで、中塗り、上塗りのSOPを重ね塗りした。第8回目の2002年からのプライマーは、環境対応型(弱溶剤型)さび止めペイントに変更された。
(4)層間付着性を考えると、塗替え時には、1958年に採用したSOPを使い続ける方が良い。60年以上を経過した現在でも、中塗り、上塗りには新築当時のSOPを使い続けている。
ただし、タワーは2008年に創立50周年を迎えるに当たり、一区間だけ水性エナメルを採用して、塗膜状態を調査している。東京タワーの塗装面積は東京ドームの2倍に当たる78,000m2であり、ペンキの使用量(0.4kg/m2×78,000 = 31,200kg)は20kg入り石油缶で約1,560缶となる。このうち揮発性有機化合物(VOC)である有機溶剤は約24%(約7,400kg)含まれており、VOCは大気中に揮発すると化学反応を起こし、光化学スモッグの原因物質になる。VOCをほとんど含まない水性エナメルに代えることができれば、環境に優しくなる。なお、実際の施工は2007年3月半ば~年末までの集中工事(これまでの工期は3月から翌年夏ごろまでの約1.5か年)で進められた。作業時間はライトアップが消える午前0時から7時ごろまでである。
東京タワーには図1-10に示すように約600段の外階段を登って展望台に行くことのできるコースがある。5)『オープンエア外階段ウォーク』と呼ばれ、登る過程でタワーの塗装状態をチェックでき、大いに楽しめる。機会を見つけて、トライされたい。
〔参考文献〕*通し番号
1) 坪田実:“図解入門塗料と塗装の基本と実際”, 秀和システム, p.22, 75 (2016)
2) 坪田実:色材, Vol.91, No.8, p.282 (2018)
3) 坪田実:“塗料・塗装の何でも質問講座”, モノタロウ, 4-11 (2022)
4) 大澤悟:建材試験センター 建材試験情報 5月号(2014)
5) https://www.klook.com/ja/blog/tokyo-tower/より引用し、著者が加工して掲載