小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
塗膜が鋼やアルミなどの金属製被塗物を腐食から保護する機能を防食性と呼びます。塗膜の防食性は次の3つの機能が総合して発現されます。
① 遮断機能
水、酸素、イオンなどの腐食物質が、透過するのを遮断する機能
② 密着機能
塗膜が腐食環境に置かれても、剥離しないように密着する機能
③ 化学防錆機能
腐食物質が透過しても、被塗物金属の腐食反応を抑制する機能
上記①に関しては、バインダーシステムの化学構造に依存する部分が大きいですが、たとえばマイカのような鱗片状(りんぺんじょう:うろこ状のこと)の顔料が塗膜中で被塗物表面と平行に配向すると、腐食物質が塗膜を透過するためには顔料をう回しなければならないので、ルートが長くなって遮断機能は強化されます。ただし、一般的には防錆顔料を化学的に金属の腐食反応を抑制する顔料に限定しますので、形状が鱗片状であるだけでは防錆顔料に含めません。
②に関しては、「エポキシ樹脂は密着が良い」などと言われるように、もっぱらバインダー樹脂の化学構造に依存します。防錆顔料が関与するのは③の化学防錆機能です。
防錆顔料は化学的な作用で腐食を防止するのですが、そのメカニズムから表1のように分類されます。
かつては鉛やクロムなどの重金属を含む顔料が主流でしたが、その毒性のため、亜鉛やアルミを含む無害な顔料へ置換されています。ただし、古い塗膜には鉛やクロムなどの重金属含有顔料が使用されていますので、塗り替え作業に伴う旧塗膜の剥離作業などでは、剥離塗膜の破片を吸引しないように注意が必要です。
図1は「ブールベイ(Pourbaix)の相図」と呼ばれ、鉄の安定な形態と置かれた環境のpHおよび電位(酸化力に相当)との関係を示すものです。
腐食が進むのはイオン状態(Fe2+,Fe3+)が安定な領域で、鉄はイオンとなって溶出します。金属状態(Fe)と酸化物状態(Fe2O3, Fe3O4)が安定な領域では、腐食は進みません。
図1から、pHがおおよそ8以上の塩基性雰囲気下では、イオン状態が安定な領域は存在せず、腐食は進行しません。塩基性顔料は塗膜下を塩基性雰囲気に保つことで鉄の腐食を防止します。
顔料から溶出するイオン(アルミン酸イオン、モリブデン酸イオンなど)により、金属表面を「不動態(腐食作用に抵抗性のある酸化被膜)」化します。また、腐食性物質を酸化して不溶性にします。
鉄やアルミニウムなどの金属に対して、このような作用のあるイオンをインヒビターイオンと呼びます。
鉄よりイオン化傾向の大きい金属で、鉄より先にイオン化する(消費される)ことで鉄の腐食を防止します。このような作用を「犠牲防食効果」と呼びます。
代表的な金属粉顔料は亜鉛粉(亜鉛末)です。防食目的で使用される亜鉛粉を含む塗料を「ジンクリッチ塗料」と呼びます。また、その亜鉛の酸化生成物である酸化亜鉛は塩基性なので、塗膜下を塩基性に保つ効果もあります。
多くの場合、密着性と腐食物質の遮断機能に優れるエポキシ樹脂やエポキシ変性ウレタン樹脂をバインダーとして塗料化されます。
亜鉛末はエチルシリケートなどをバインダーとする無機ジンクリッチ塗料と、上記の有機バインダーで塗料化された有機ジンクリッチペイントの両方があります。
一般的に、防錆顔料は粒子径や比重が大きいので沈降しやすく、塗料設計では、適切な増粘剤の処方が必要です。防錆顔料の種類や作用機構の詳細については、以下の総説を参照してください。
1) 衣笠雅典、J. Jpn. Soc. Colour Mater.(色材)、 54, 460(1981)
2) 福知稔、J. Jpn. Soc. Colour Mater.(色材)、 88, 117(2015)
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