石川 敦雄
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
バイオフィリックデザイン(Biophilic Design)が注目を浴びています。バイオフィリックデザインを理解するには、バイオフィリア(Biophilia)という概念を知る必要があります。バイオフィリアとは、1984年にアメリカの生物学者エドワード・O・ウィルソンによって提唱された概念・仮説であり、「人間には、生命および生命に似た過程に対して関心を抱く生得的傾向がある」ことが提唱されています1)。
もう少しかみ砕いて説明すると、「私たち人間が、自然および他の生物に抱く愛着は、生物多様性に富んだ地球の自然環境の中で進化することで獲得された生得的な性質である」ということになります。
図1 生物多様性に富んだ地球の自然環境
このバイオフィリアに基づくデザインであるバイオフィリックデザインとは、主にオフィス空間に代表されるような人間がつくる人工的な環境に、人間が結び付きたいという欲求を抱いている「自然(要素)」を取り入れることで実現されるデザインです。
バイオフィリックデザインが人にもたらす効果については、世界中でさまざまな研究がおこなわれ、ストレスの低減、回復の促進、集中力の向上、生産性の向上といったポジティブな影響が確認されています2), 3)。
このバイオフィリックデザインによる「回復の促進」や「集中力の向上」などの効果に関連して、米国の環境心理学者であるカプラン夫妻が注意回復理論(Attention Restoration Theory: ART)を提案しています4)。この注意回復理論では、注意と精神的疲労からの回復に関して、勉強や仕事など意図的に注意を向ける作業が継続することによる精神的な疲労からは、自動的に注意が向くような環境で回復すると定義され、自然環境はこの自動的注意をひくような環境(=回復環境)であるとされています。
たとえば、オフィスワーカーの昼休み行動に関するいくつかの研究では、昼休みに公園を散歩して自然に触れることが、午後の疲労回復や活力の向上などをもたらす可能性があることが報告されています5), 6)。今の時代、オフィスワーカーが抱えるストレスは非常に大きく、土日での回復のような週単位での回復ではなく、1日の中で細かく回復しながら、いきいきと働くことが求められる時代になっていると思います。
テニスプレーヤーが試合中に小さなリカバリー(回復)を入れながら長時間のパフォーマンスを維持するように、マラソンランナーがスポーツドリンクを摂ったり、給水したりしながら走り続けるように、オフィスワーカーもある意味アスリートのように仕事とリカバリーを繰り返しながら働くことが求められているのではないでしょうか。そのような意味でも、バイオフィリックデザインには大きな期待が寄せられています。
図2 公園を歩く
非常に短い時間のリカバリーに関しては、屋上緑化が注意回復に及ぼす影響についての研究があります7)。この研究では、緑化された屋上とコンクリートむき出しの屋上が比較され、屋上緑化を「40秒間眺める」だけで注意回復の効果が得られることが示されました。ビジネスアスリートの皆さんのパフォーマンスを高めるためにも、「緑」をいかした小さなリカバリーを仕事の中に取り入れてみてください。
1)
Wilson, E. O. (1984). Biophilia, Cambridge, MA, Harvard University Press.
2)
Gillis, K., & Gatersleben, B. (2015). A review of psychological literature on the health and wellbeing benefits of biophilic design. Buildings, 5(3), 948-963.
3)
Zhong, W., Schröder, T., & Bekkering, J. (2022). Biophilic design in architecture and its contributions to health, well-being, and sustainability: A critical review. Frontiers of Architectural Research, 11(1), 114-141.
4)
Kaplan, R., & Kaplan, S. (1989). The experience of nature: A psychological perspective. Cambridge university press.
5)
De Bloom, J., Sianoja, M., Korpela, K., Tuomisto, M., Lilja, A., Geurts, S., & Kinnunen, U. (2017). Effects of park walks and relaxation exercises during lunch breaks on recovery from job stress: Two randomized controlled trials. Journal of Environmental Psychology, 51, 14-30.
6)
Johnsen, S. Å. K., Brown, M. K., & Rydstedt, L. W. (2022). Restorative experiences across seasons? Effects of outdoor walking and relaxation exercise during lunch breaks in summer and winter. Landscape Research, 47(5), 664-678.
7)
Lee, K. E., Williams, K. J., Sargent, L. D., Williams, N. S., & Johnson, K. A. (2015). 40-second green roof views sustain attention: The role of micro-breaks in attention restoration. Journal of Environmental Psychology, 42, 182-189.
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