石川 敦雄
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
モデルやタレントとして活躍されているアンミカさんがTV番組などでたびたび発言される「白って200色あんねん」が、話題を集めています。
皆さんは、この世の中に「色」が何色あるのか、考えたことはありますか?
色彩学のテキスト1)によれば、人間が識別できる色数は、条件が整えば700万色とも1000万とも言われているそうです。このくらい識別できるのであれば、白の200色も見分けられそうです。このテキストでは、色名の「分化」は、その文化の中での必然性と深く関係していることも指摘されています。
たとえば、冒頭の「白」に関して、イヌイット(アラスカに住む先住民族)の人たちは、「白」を表す言葉を数十種類持っていると言われているそうです。雪と氷に覆われた、白一面の世界に暮らす人々にとっては、「白」といってもこれを細かく識別し、気象のわずかな変化や地理的な場所の手がかりとして言い分けることが非常に重要だからだそうです。
これに関連して、日本における色名の規格についてご紹介します。日本産業規格(JIS)には、物体色の色名として系統色名、慣用色名がそれぞれ定められています。
系統色名とは、あらゆる物体色を系統的に分類して表現できるようにしたもので、有彩色の系統色名と無彩色の系統色名に大別されます。有彩色の基本色名は「赤、黄赤、黄、黄緑、緑、青緑、青、青紫、紫、赤紫」の10色です。無彩色の基本色名は、白、灰色、黒の3色です。
有彩色の場合は、この基本色名に、「明度および彩度に関する修飾語」「色相に関する修飾語」が付けられます。「明度および彩度に関する修飾語」は、「あざやかな、明るい、つよい、こい、うすい、やわらかい、くすんだ、暗い、ごくうすい、明るい灰みの、灰みの、暗い灰みの、ごく暗いの」の13種類となります。「色相に関する修飾語」は、「赤みの(紫、黄)」「黄みの(赤、緑)」「緑みの(黄、青)」「青みの(緑、紫)」「紫みの(青、赤)」の5種類です。結果として、有彩色の系統色名は260色となります。
一方、無彩色は灰色に明度に関する4種類の修飾語(うすい、明るい、中位の、暗い)が付き、白、黒とあわせて6色となります。この6色に、色みを帯びた無彩色に付ける「色相に関する修飾語」14種類が付く場合があるので、合計で90種類(=6+6×14)となります。
ちなみに、無彩色に付けられる14種類の「色相に関する修飾語」は、「紫みを帯びた赤みの」「赤みの」「黄みを帯びた赤みの」「黄赤みの」「赤みを帯びた黄みの」「黄みの」「緑みを帯びた黄みの」「黄緑みの」「緑みの」「青緑みの」「青みの」「青紫みの」「紫みの」「赤紫みの」となり、かなり複雑な感じです。このように有彩色260色、無彩色90色がそれぞれ言い分けられるように系統化されていますので、結果として350色の色を言い分けることができます。
一方、慣用色名とは、古くから生活の中で用いられてきた色名で、よく使用される色名としては、ねずみ色、うぐいす色、桃色、レモンイエロー、チョコレートなどが挙げられます。このように慣用色名としては、動物や植物、食べ物、染料や顔料、鉱物、自然現象、地名などさまざまな由来で名付けられた色名が存在します。JISでは、日本語名の慣用色名として147色、英語名の慣用色名として122色、合計269色が採用されています。
また、JISの慣用色名では、これを系統色名や代表的な色記号(マンセル表色系)と対応させており、たとえば、「ひまわり(向日葵)色」は、「あざやかな黄」であり、「2.0Y 8.0/14.0」となっています。これに対して、「たんぽぽ(蒲公英)色」も、「あざやかな黄」で同じですが、色記号は「5.0Y 8.0/14.0」となります。結果として、「ひまわり色」の方が「たんぽぽ色」よりも、ちょっとだけ赤みが強いということになります。春の花であるたんぽぽと、夏の花であるひまわりを直接比べることは難しいですが、もしこれらの花を見る機会があれば、その色相をじっくりと観察してみてください。
図1 たんぽぽとひまわり
冒頭のイヌイットの「白」に代表される色と文化との関わりに関連して、虹の色数に文化差があることも広く知られています2)。日本では一般に、「赤・橙・黄・緑・青・藍・紫」の7色とされていますが、英語文化圏ではこの7色から藍(indigo)が除かれた「red、orange、yellow、green、blue、violet」が一般的のようです。また、メキシコの先住民族であるマヤ族では、「黒・白・赤・黄・青」の5色を、アフリカの南部地方では3色、西アフリカ地方では2色を識別すると言われているそうです。虹の色に、黒や白が含まれるのは日本人にとってはちょっと不思議な感じがしますが、色の識別にはこのような大きな文化差があるのです。
図2 虹
文化だけでなく、職業的な経験も色の識別に大きな影響を及ぼします。病院に勤務する700人以上の看護師を対象とした調査によれば、看護師が用いる「身体などの状況を表す色」については、平均で約24色であり、経験年数とともに有意に増加することが指摘されています3)。臨床経験が1年未満の看護師では、平均で約15色ですが、経験年数が10年に近くなるころには、平均で約30色の色を使いこなすようになるようです。
基本色としては、「黄」「緑」「赤」「青」の4色に加えて、「黄緑」「緑黄」の2色表現、基本色の組み合せである「赤緑」の合計7色が使われていることが報告されています。JISの系統色名には存在しない「緑黄」を使うことで、「黄緑」との微妙な色の違いを表現したり、色相としては存在しない「赤緑」によって色ということだけでは表現できない患部などの状態を表現したりすることは、色彩学の観点からも非常に面白いと感じました。
これ以外に、「明度に関する表現」として、「黒」「白」「茶」「褐」「橙」を用いて「緑白」や「黒赤」のように用いたり、濃淡を表す「濃」「淡」「希」「薄」や明度を表す「暗」などと組み合わせて「淡黄」「濃緑」「暗赤」などのように表現したりすることもあるようです。
ユニークな事例として、調査の中では色の薄さを表現するために「淡々々々」のような表現も見られたと報告されています。このように看護師の皆さんが表現する色を、一般の人々が共有することは難しいかもしれませんが、臨床に携わる人たちにとっては、身体などの状態を適切に識別するための色名として十分に機能している、というところが「色」の奥深さだと感じました。
冒頭のアンミカさんは、「黒は300色」ともおっしゃっているようです。たしかに、私の机の周りにあるキーボード、ディスプレイ、プリンター、文房具などいろいろなモノにも「黒」が使われていますが、よくよく観察してみると、もちろん1つ1つ異なる色だということに気づかされます。
みなさんも、身の回りの色にちょっとだけ意識を向けて、もしもこの黒とあの黒を言い分けるとすれば何と言い分けるのか、考えてみてはいかがでしょうか? ちなみに私のディスプレイの脚部に使われている黒には、勝手に「硯黒」と名付けてみました。
図3 ディスプレイの脚部の黒
1) 大山正, 齋藤美穂 (2009). 色彩学入門: 色と感性の心理, 東京大学出版会.
2) 矢田裕士 (1998). 日英語色彩語彙表現比較研究, 東京家政大学研究紀要, 1, 171-189.
3) 齋藤やよい, 小池潤 (2001). 色彩学的にみた看護職者の色表現方法の実態, The KITAKANTO Medical Journal, 51(1), 35-41.
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