石川 敦雄
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
皆さんは、食事をするときの「色」について考えたことはありますか?
日本人の中学生から大学生までの男女を対象に、食品の色彩と嗜好や食欲促進との関連を調べた調査では、食品の色として、オレンジを最も好み、次いで赤、ピンク、黄の暖色系が好まれ、茶、紫、青が好まれなかったことが指摘されています1)。
また、食欲を増進させる色についての意識調査の結果、順位に相違はあるものの男女とも上位3つは赤、オレンジ、黄であり、青、紫、無彩色はほとんど選ばれなかったことが報告されています。
このように、「青」は食事において「好まれない色」として知られていますが、広く世界を見渡すと白磁器に青色で染付された食器が伝統的に生産され、現在でも利用されています。
図1 白磁器に青色で染付された食器
そう考えると、「青」は食事にとって好ましいのか、それとも好ましくないのか?という疑問がわいてきます。この疑問に対して、日本人の研究グループが調査した研究があります3)。この研究の結果、皿全体に占める青色部分の割合が食欲に影響し、青色部分の割合が10~20%の範囲では食欲が増進するのに対して、青色の割合が高くなると食欲が減退することが明らかになりました。
この研究では、食品の色彩は赤紫~橙~黄緑の範囲に多く、青~紫の範囲に入る食品はほとんど存在しないため、白磁器の青い染付皿を利用すると、食品にない色を食器が補うことで料理が彩り豊かに見えることが、このような食器が広く用いられている理由として考察されています。
次に、「赤」の影響について考えてみたいと思います。前述したように、「赤」は食品に多く含まれる色であり、食欲を増進させる色であることも報告されています。ファストフードの大手チェーンや、牛丼の大手チェーンなどのロゴや看板、店舗などにも赤が多用されています。
その一方で、ヒトの接近・回避行動に関して、「赤」が回避行動を促進する色であることも知られています4)。そうすると、ここで再び、「赤」はどっち?という疑問がわきます。
これに関して、食品と色を同時に提示し、接近・回避行動に対する反応を調べた心理学研究があります5)。この研究では、ドイツの大学生を対象に、画像を用いた心理学実験が行われました。この実験では、白地に黒の線画で描かれた「健康食品(ピーマン、オレンジ、グレープ等)」と「不健康な食品(ハンバーガー、ピザ、アイスクリーム等)」を、赤い円もしくは緑色の円で囲んで、実験参加者に呈示したときの接近・回避行動が調べられました。その結果、赤い円で囲まれた「不健康な食品」に対しては、回避行動が生じることが示されました。この研究では、「健康な食品」に対しては、赤い円で囲んだとしても回避行動が生じないことが報告されています。つまり、その食品に対してポジティブな評価を与えている場合は、「赤によって回避行動は生じないが、ネガティブな評価を与えるようになると回避行動が生じてしまう」ということです。外食産業や食品パッケージなどで赤を使う場合には、ポジティブな評価を維持することが非常に重要ということになります。
このように、食事と色の関係もなかなか複雑です。真剣に考えすぎると、せっかくのおいしい食事が味わえなくなるので、今回のテーマのことは一度忘れて、食べ物と食べることに集中しながら、周りの人との会話を楽しんでください。
図2 赤い色がついた皿
1) 川染節江 (1987). 食品の色彩嗜好に関する年齢および男女間の変動, 日本家政学会誌, 38(1), 23-31.
2) 奥田弘枝, 田坂美央, 由井明子, 川染節江 (2002). 食品の色彩と味覚の関係-日本の20 歳代の場合-, 日本調理科学会誌, 35(1), 2-9.
3) 川嶋比野, 数野千恵子 (2009). 皿色に占める青色の割合が心理的なおいしさに与える影響, 日本家政学会誌, 60(6), 553-560.
4) Moller, A. C., Elliot, A. J., & Maier, M. A. (2009). Basic hue-meaning associations, Emotion, 9(6), 898-902.
5) Rohr, M., Kamm, F., Koenigstorfer, J., Groeppel-Klein, A., & Wentura, D. (2015). The color red supports avoidance reactions to unhealthy food. Experimental psychology, 62(5), 335-345.
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