小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
着色顔料は光を吸収、反射、散乱させることにより、塗膜に色彩や隠蔽(いんぺい)性を付与します。有機着色顔料と無機着色顔料があります。
一般論ですが、有機着色顔料は色彩が鮮やかですが、耐候性や耐光性、耐熱性などの諸耐久性能が無機着色顔料に比べて劣ります。有彩色の無機着色顔料は耐久性能には優れるのですが、色彩の鮮やかさでは有機着色顔料に劣ります。一方、無彩色の二酸化チタン(白色)やカーボンブラック(黒色)の白さ、黒さは各段に優れています。
有機着色顔料や無機着色顔料は、可視光領域の特定の色(波長)の光を吸収するような化学構造を持っています。顔料がある色の光を吸収すると、その顔料は吸収された光の色の「補色」に見えます。
可視光は波長が短くなるにつれて、色が赤・橙・黄・緑・青・紫というように連続的に変化します。これを図1のように連続的に配列し円環状にしたものを、「色相環」といいます。
補色というのは色相環で、対角線上の色同士の関係です。例えば、顔料が赤紫色の光を吸収すれば、その補色の緑色に見えます。顔料が可視光領域の全ての波長の光を吸収すれば黒色となります。
ここに示した着色原理は、有機着色顔料、無機着色顔料ともに共通です。
可視光領域に吸収が無ければ無色なのですが、粒子径が小さくなるにつれて、粒子表面で光が散乱(乱反射)されて白色となります。透明な氷の塊を、かき氷にして小さな粒になると白く見えるのと同じ原理です。
粒子径が同じであれば、顔料の屈折率が大きいほど、光を散乱する能力は大きくなります。有機顔料よりも無機顔料の方が屈折率は大きいので、白色顔料として使用されている顔料は、二酸化チタン、酸化亜鉛のような無機顔料です。中でも二酸化チタンの屈折率が一番大きいので、塗料で白顔料と言えば二酸化チタンということになります。
塗料用有機顔料の代表的な化学構造式を図2に示します。
図のように、有機顔料の分子はベンゼン環や二重結合が幾つもつながった構造で、基本的に炭素、酸素、水素、窒素、イオウの各原子から構成されます。これらの原子に加えて、金属原子(図2a)や金属イオン(図2d)を含むものもあります。図からは分かりにくいですが、有機顔料の分子は平面状をしており、多数の分子が重なりあって結晶化し、顔料粒子を構成しています。
図2のような化学構造を持つ分子では、「π(パイ)電子」と呼ばれる電子が分子全体を飛び回っています。このπ電子は光を吸収して、低いエネルギー状態から高いエネルギー状態へ励起され、高いエネルギー状態からは熱を出しながら徐々に低いエネルギー状態へ戻るという性質があります。どの色の光を吸収するかは、化学構造によって異なります。吸収する色が異なるということは、顔料の色が異なるということです。
有機着色顔料は無機着色顔料よりも諸耐久性能に劣るのですが、塗料には、インク用などに比べると、比較的耐久性能に優れたものが使用されます。塗料でよく使用される有機顔料の化学構造とC.I. Pigment名、一般的な耐候性ランクを表1に示します。
これらの顔料は、基本となる化学構造によって、図2に示すフタロシアニン系、縮合多環系、不溶性アゾ系、溶性アゾ系のどれかに分類されます。
有機着色顔料は色彩が豊富で鮮やかなので、自動車外板用塗料や工業用塗料、建築外装塗料などの上塗り塗料に用いられます。屋外用途では、耐候性ランクが優もしくは良のものを用います。
耐候性を補うために、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などの添加が必要となります。
無機着色顔料の化学構造は、主に金属の酸化物や水酸化物です。炭素を含む化合物でも簡単な化学構造のものは無機物なので、カーボンブラック(化学式ではC)は無機顔料に分類されます。
主な無機着色顔料と、その化学構造式、C.I. Pigment 名、色相を表2に示します。
かつては鉛やカドミウムなどの有害重金属を含む顔料が、隠蔽(いんぺい力)や彩度、耐久性に優れるので、多数使用されていましたが、現在では使用が制限されているため表では除外しています。旧塗膜中には含まれることがあるので、塗り替えの際には、剥離塗膜片などの扱いに注意が必要です。
無機顔料は一般的に堅牢で、耐候性、耐熱性などの諸耐久性能が優れているので、耐熱塗料や高温焼付型の塗料、建築外装塗料や構造物(橋梁・タンクなど)用塗料のトップコートとして用いられます。
無機顔料の表面には強酸点などの活性点が存在し、バインダー樹脂鎖を切断してラジカルを発生させるなど、塗膜としての諸耐久性能に悪影響を及ぼすことがあります。
特に、二酸化チタンはこの作用が著しいので、塗料用の二酸化チタン顔料は、必ずと言ってよい程、シリカやジルコニア、アルミナなどで、活性点の被覆処理がされています。
有彩色無機顔料の発色も、顔料による光吸収ですが、光を吸収するメカニズムは異なります。メカニズムに関する主な考え方は、結晶場理論とバンドギャップ理論ですが、少々複雑ですので記載は割愛します。ご興味のある方は他の書籍をご参照ください1)。
カーボンブラックの基本構造は、図3に示したように多数のベンゼン環が網目状に配列した面構造で、この構造はグラファイト構造と呼ばれます。
高温で酸素を遮断した炉の中に、石油を霧状に噴霧し、油滴を蒸し焼きにしてカーボンブラックは製造されます。この際に、微量に存在する酸素の影響や製造後の表面処理で、グラファイト構造の端部には、図3に示すような含酸素官能基が存在します。
多数のベンゼン環がつながっているという点では、有機着色顔料と似ています。ただし、有機顔料の場合は、顔料種ごとに化学構造が一意的に定まっており、特定の波長の光が吸収されて、特定の色を発色するのですが、カーボンブラックでは、この構造の大きさがまちまちです。従って、短波長光から長波長光まで、幅広く全ての可視光を吸収するので黒く見えます※)。著者注※これは1つの考え方で、議論の最中です。
カーボンブラックの粒子を電子顕微鏡で観察すると、図4に示すように球状の粒子が房状につながった葡萄のような形状をしています。
1個1個の球状粒子の中で、上に述べた基本構造を持った「結晶子」が、少し乱雑に積み重なっています。製造条件により、球状粒子のつながり構造を発達させたり抑制したりでき、その程度は「ストラクチャー」という用語で表現されます。
顔料分散では、通常の顔料分散機でこれ以下には微粒化できないという最小構成単位の粒子を「1次粒子」と呼びます。一方、カーボンブラック業界では、球状粒子1つの大きさが1次粒子径と呼ばれています。
ストラクチャーは、製造時に1個1個の球状粒子同士が、高温状態で融着して形成されるので、その凝集は強く、通常の分散機では分離できません。従って、通常の顔料分散工程で微粒化できる限界は、ストラクチャー全体の大きさということになるので注意が必要です。
カーボンブラック業界でいう1次粒子径(図4の球状粒子1つの大きさ)が小さくなるほど漆黒性は高くなります。真っ黒な高漆黒塗装では1次粒子径が10nm前後のものが用いられます。一方、調色(チンチング)用途では、分散安定性や価格の点で20~50nm程度のものが用いられます。
参考文献
1) 小林敏勝;「塗料大全」、p.91、日刊工業新聞社(2020)
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