小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
ここまでは「塗料に用いられる樹脂の種類と特徴と使用環境」として、ポリエステルやアクリル、ウレタンなど、樹脂骨格の化学構造ごとに、その性質を説明してきましたが、今回は、化学構造が異なる樹脂同士でも比較する際に使用できる共通した指標について説明します。
「酸価」、「水酸基価」、「ヨウ素価」、「アミン価」、「エポキシ当量」、「イソシアネート当量」などがあります。それぞれの定義と測定方法、計測方法のJIS番号は表1の通りです。
酸価、水酸基価、アミン価の「~価」と呼ばれる3つは、定義は表1に示す通りですが、要は、それぞれ酸性基(通常はカルボキシル基)、水酸基、アミノ基の1gあたりの濃度を、それと同モル数の水酸化カリウムのミリグラム数で表したものです。
水酸化カリウムが基準になるのは、酸価の測定の際に水酸化カリウムが使用されるためです。水酸化カリウムの1molは56100mgなので、たとえば水酸基濃度が0.001mol/gであれば、水酸基価は56100×0.001=56.1(単位はmg-KOH/g)となります。
ヨウ素価は樹脂や油脂中に含まれる不飽和結合の量を示しますが、「~価」と表現されるものの中では定義が異なり、試料100g中の二重結合に付加して、結合を飽和させるのに必要なヨウ素のグラム数になっています。二重結合1モルにヨウ素は1モル(約254g)が付加します。たとえばオレイン酸CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOHの場合は、分子量が282.5で二重結合が一つあるので、ヨウ素価は254×1×100÷282.5=89.9となります。
エポキシ基もしくはイソシアネート基を持つ樹脂について、官能基1個あたりの樹脂の量を示すのが「~当量」と呼ばれる値です。たとえば、樹脂ではありませんが、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)OCN-(CH2)6-NCOの分子量は168で、イソシアネート基が2個ありますから、イソシアネート当量は168÷2=84となります。
「~価」は数値が大きくなるほど樹脂中の濃度は高くなるのに対し、「~当量」は数値が大きくなるほど樹脂中の濃度は低くなるので注意してください。
ここで説明した各指標は、たとえば、2液型ポリウレタン塗料を設計する時の、ポリオール樹脂の水酸基と、ポリイソシアネートのイソシアネート基の量比や、エポキシ樹脂をアミン系硬化剤で硬化させる際のエポキシ基とアミノ基の量比など、硬化条件の検討に用います。
塗料用樹脂についてはほとんどの場合、「ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)」による測定値が示されます。GPCの測定原理は、一般的に図1のようなモデルで説明されます。
GPCは液体クロマとグラフィーの1種で、「サイズ排除クロマトグラフィー」とも呼ばれます。カラムには孔径の異なる小さな孔を多数持つ粒子(多孔質粒子)が充填されています。
キャリアーの液体に高分子を溶解させてカラムに流入させると、図1のように大きな樹脂分子は、多孔質粒子の内部へは入れないため(寄り道をしないため)、結果的に最も早く出口に到達します。一方、小さな分子ほど小さな孔や深部へ到達できるため(寄り道を繰り返すため)、流路が長くなり、カラム出口に到達するのが遅くなります。この原理により、サイズが大きな分子から順次溶出することになるので、サイズ排除クロマトグラフィーの名があります。
分子量は「ポリスチレン換算分子量」と表示されていることが多くあります。これは、次のような手順で測定されたものです。まず、分子量分布が極めてシャープで分子量の分かっているポリスチレン(標準ポリスチレン)を、あらかじめカラムに流して分子量と「保持時間」(カラムに投入してから出てくるまでの時間)の関係を測定しておきます。次に、分子量を知りたい試料を同じカラムに投入して保持時間を計測します。保持時間が同じポリスチレンの分子量を、試料の分子量として表示します。
樹脂の分子量が大きい程、塗膜は強靭になりますが、濃度を一定とした場合には塗料の粘度は高くなります。塗装時の粘度は、変えてはいけないので、高分子量の樹脂を用いた塗料ほど、固形分濃度は低くなり、揮散する溶剤(VOC)の量は多くなります。
樹脂独特の粘度測定法として、「泡粘度計法(JIS K7233:1986)」があります。試料管に入れた樹脂の中を上昇する泡の速さを標準液と比較して、標準管に示した記号で粘度を表す方法です。標準菅の記号はアルファベットのA~Zで表し、Aから順に高くなります。さらに、Aより低粘度のA5~A1と、Zより高粘度のZ1~Z10までがあります。代表的な標準管の記号と該当する動粘度(粘度を液体の密度で割ったもの)を表2に示します。
塗料用樹脂の多くは非晶質高分子であり、低温では硬くてガラスのような状態(「ガラス領域」)ですが、温度が高くなると軟らかいゴムのような状態(「ゴム状領域」)になります。温度と弾性率の関係で示すと、図2のようになります。
ガラス領域では高分子を変形させるのに大きな力が必要ですが、ゴム状領域では小さな力で変形します。さらに高温になると非架橋高分子は流動状態になります。ゴム状領域では、力を取り除くと元の状態に戻るのに対し、流動状態では変形は元に戻りません。前者の変形を弾性変形、後者を塑性変形と呼びます。
ガラス領域からゴム状領域への変化は、一定の温度で急激に生じます。この温度のことを「ガラス転移温度(Tg)」と呼びます。非晶質高分子の比熱や熱膨張率、圧縮率、弾性率などの諸物性もTgで急激に変化します。
この現象は高分子鎖の動きやすさの急激な変化によって生じるので、樹脂の化学構造や硬化剤の種類、可塑剤の有無、架橋密度などによってTgは変化します。一般的にTgの低い樹脂は柔軟な塗膜を形成し、高い樹脂は硬い塗膜を形成します。
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