塗料用樹脂は一般に有機溶剤に溶解しますが、水には不溶です。樹脂を完全な水溶解性にすると、塗膜の耐水性が悪くなるので、部分的に溶解性にして水性化します。この操作として、樹脂の両末端か途中に水性化できる官能基を付ける方法、あるいは、エポキシ樹脂のように両末端にエポキシ基を有する樹脂を選択します。水性化は、樹脂の官能基部分がイオンに解離できれば良いことになり、図2-39に示すように、中和反応を利用します。ここではカチオン型電着塗料の主原料であるエポキシ樹脂を水性化する方法に付いて解説します。
水性化する方法を図2-40にまとめて示します。図中(a)のエポキシ樹脂では中和反応が利用できないから、次のように調製します。
主剤のアミン変性エポキシ樹脂には分子鎖中に-OHがあり、イソシアネート基(-NCO)を有する硬化剤を選ぶと、ウレタン結合で橋かけできます。ただし、-NCOは水と反応してしまうから、-NCOをブロックした状態で使用します。図2-41に示すブロックド・イソシアネートと呼ばれる硬化剤です。ブロック剤は加熱により解離するから、電着した樹脂は焼付けによりウレタン結合で橋かけ塗膜になります。なお、ブロックド・イソシアネートに付いては、これを強制乳化し、図2-40 (b) の樹脂と混合して使用し、被塗物表面に析出させます。
電着塗料は樹脂粒子として存在し、焼付けにより連続被膜を形成します。プライマーの主目的はさび止めです。化成皮膜無し鋼板について一連に異なる膜厚のカチオン電着板を調製し、塩水噴霧試験でさびの発生を調べた結果を図2-42に示します。さびの発生の変曲点は5μm程度であり、10μm以上になるように塗装すれば良いことが判りました。車体の電着塗膜の膜厚は20μm以上になっています。
実際に、前処理工程、電着塗装に従事されている方々にこの相談を持ちかけたところ、次のような回答を頂きました。
- 化成皮膜が部分的にのらない(スケ)原因のほとんどは、脱脂不良により油を落とし切れていないためである。
- 図2-43に示すように、化成皮膜が無かったり、化成皮膜量が少ないと、電気抵抗値が低くなり電着塗膜の膜厚が厚くなる。膜厚が厚ければ、塗膜は伸びた肌になるから、見た目には平滑である。このような外観になっている場合には、化成皮膜がないか、薄いことを疑った方が良い。電着の肌を見慣れている人であれば、見た目で異常を判別できるし、膜厚測定も有効である。ただし、電着工程以降で化成皮膜のスケの有無を目視等で探すことは困難であるから、電着塗膜焼付け後の診断は重要である。
- 電着塗膜が厚くても、化成皮膜のないスケの部分は錆が発生しやすい。
カチオン型電着塗装の原理から実際までを2-7~2-9の3回に渡って解説しました。電着塗装から塗膜形成までのまとめを図2-44に示します。
〔引用・参考文献〕*本章通し番号
1) 坪田実:“ココからはじめる塗装”, 日刊工業新聞社, p.8-27 (2010)
2) 坪田実:“トコトンやさしい塗料の本”, 日刊工業新聞社, p.51, 55-59, 81-83 (2008)
3) 坪田実:モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 第3章 いろいろな塗り方
4) 坪田実:“工業塗装入門”, 日刊工業新聞社, p.29 (2019)
5) 職業能力開発総合大学校編:“塗料”, 雇用問題研究会, p.113-117(2007)
6) 杉崎勝久:表面, Vol.53, No.5 (2002)
7) 石井均:表面技術, Vol.61, No.3 (2010)
8) 平澤秀公:色材協会関東支部 平成28年度塗料講演会テキスト, p.33-39 (2016)