1.5 電着塗装 <sup>2)</sup>
電着塗装法とは、電着塗料浴液中に導電体である被塗物を浸せきし、被塗物と対極との間に直流電圧を印加して電気化学的に塗膜を形成する塗装方法です。アメリカのフォード社において1961年に初めて電着塗装法が公開されました。この塗装法は、わが国の工業塗装分野に直ちに導入され、自動車ボディや家電製品、および建材などのプライマー塗装の汎用的塗装法になりました。
1.5.1電着塗装の原理
電気化学をベースとする塗装法が電着塗装です。水の電気分解を理解すれば、電着塗装の原理が分かります。図2-30(a)に示す装置で、水の中に電解質(0.1MのNaOHや希酸など)を入れ、白金電極を直流電源に接続します。電圧を上げてゆくと電流値が上昇し、両極から泡がでてきます。これらの泡は気体の発生を示しており、図(b)に示すように、-極からは水素H<sub>2</sub>が、+極からは酸素O<sub>2</sub>が生成します。<sup>2)</sup>
図2-30 水の電気分解<sup> 2)</sup>
さて、電着塗料のカチオン樹脂は+イオンになって水に溶解しているか、粒子状になって居るかは、塗料によって異なります。被塗物を直流電源の陰極につなぐと、図2-31 に示すように+イオンの塗料は陰極に移動します。この現象を電気泳動と呼びます。陰極の被塗物表面では水の電気分解も起こっており、OH<sup>-</sup>が生成し、アルカリ性になっています。H<sup>+</sup>は電極からe(電子)をもらって、H2ガスになります。同時に電気泳動で来た+イオンの塗料(カチオン樹脂)はOH<sup>-</sup>と中和反応し、図(a)に示すように、-電極上で電荷をなくし、水に不溶となり、析出します。この現象を電気析出現象と呼びます。<sup>2)</sup>
図2-31 カチオン型樹脂(塗料)の電着過程を示すモデル図 <sup> 2)</sup>
さらに通電していると、電気析出が進行し、電気浸透という現象を生じます。図(b)に示すように、被塗物面に析出した樹脂の中には電荷を有している樹脂もあり、電圧が印加されているから導電性のある被塗物面にさらに近づき、たい積して行きます。この時に、樹脂層から水が絞り出されて、塗料が融着します。電気析出時の中和反応で生成した水が樹脂層から抜けてゆき、その結果、被塗物のほぼ全面に塗料が付着します。
所定時間後、通電を止め、被塗物を取り出し、水洗して余分な塗料を取り除き、乾燥させます。その後、焼付けると、加熱により樹脂成分が流動し、多孔質な塗膜は連続相になり、光沢のある塗装面になり、防錆(ぼうせい)力を発揮します。
次に、電着時に流れる電流を測定した筆者の実験を紹介します。<sup>3)</sup>
図2-32に示す電着装置で、アクリル/メラミン樹脂をビヒクルとしたアニオン電着塗料をブリキ板に塗装しました。得られた電流値の変化を図2-33(a)に示します。回路に流れる電流の変化を図2-32に示す電気抵抗値3Ω間の電圧変化として記録計に取り出し、電流値に換算しました。ブリキ板は通電して約20秒後には電流値はほぼ0になりました。ブリキ板で電流値が0になったことは、被塗物表面が絶縁体になったことを示しています。この後、電気浸透が進行するから60秒間、通電しました。
図2-32 アニオン型塗料の電着塗装実験装置 <sup>3)</sup>
図(a)で得られた電流I~時間t曲線の面積が電荷量Qになりますから、電荷量Qは膜厚に比例するはずです。そこで、Qと膜厚との関係を調べてみました。結果は図(b)に示すように、両者間には良好な相関性が認められました。これより、電着塗装における膜厚管理はQの計測で可能であることが分かりました。
電着塗料用樹脂の電着過程は使用塗料の特性や印加する電圧により変化することは、図2-31、33から理解できますが、電着塗装を実施するうえでは、電着浴液および電気的条件の適正な管理と、電着浴液のかくはん状態の点検が重要だと思われます。実際にやった事はありませんが、電着浴液の管理項目としては,組成分、濃度、温度pH、電気抵抗値などが大切であり、定期的に電着浴液のろ過を行い,沈殿防止と均質化を図ることが重要です。<sup>5)</sup>
図2-33 電着塗装実験の解析 <sup>3)</sup>
1.5.2 電着塗装の特徴について <sup>5)</sup>
電着塗装の最大の長所は、細部にも塗れるつきまわり性です。つきまわり性は,パイプ内部への塗着状態を調べる方法か、平行した2枚の試験板のはさまれた内側への塗着状態を調べて判定します。
電着塗装の長所は次のようです。
- 複雑な形状、内板部、袋構造部への塗装が容易である。
- 自動化、連続生産が容易である。
- 塗料の損失が少ない。
- 水系塗料を使用するため,火災の危険が少なく、低公害塗料である
- 塗装膜厚を電着条件により定量的に管理できる。
一方,短所は次のようです。
① 塗料必要量と比べて、浴槽内の塗料を多くしなければならない。
② 装置の構成が複雑であり、設備費が高い。
③ 塗料の管理が厳しく、また塗料の交換が困難である。
本章ではこの記事を含め、3回に渡って、電着塗装機構と塗料、塗装工程に付いて解説します。本記事のまとめとして、図2-34にカチオン型電着塗装のメカニズムを示します。図と図中の解説を読んで、化成皮膜処理された鉄鋼製車体に電着塗膜が形成される機構を理解してください。
〔引用・参考文献〕*本章通し番号
1)坪田実:「ココからはじめる塗装」日刊工業新聞社、p.8-27 (2010)
2)坪田実:「トコトンやさしい塗料の本」日刊工業新聞社、p.51, 55-59, 81-83(2008)
3)坪田実:「モノタロウ 塗料・塗装の何でも質問講座 第3章 いろいろな塗り方」
4)坪田実:「工業塗装入門」日刊工業新聞社、p.29(2019)
5)職業能力開発総合大学校編:「塗料」雇用問題研究会、p.113-117 (2007)