塗装と腐食の関係性 ⑦腐食とpH
2024/03/12
腐食を及ぼす環境的要因は温度、湿度、溶存酸素量などたくさんあります。そのなかの1つにpHという要因があります。pHは水素イオン濃度指数(または水素イオン指数)と言い、水溶液の酸性やアルカリ性を表すものです。なお、一般的な純水は中性となります。
pHとは水溶液中の水素イオンのモル濃度(厳密には活量)を表します。多くの場合pH0からpH14の値を取ります。pH7が中性となり、pH7以下を酸性、pH7以上をアルカリ性と呼びます。pHの決まりとして、水溶液中の水素イオン(H+
)の濃度と水酸化物イオン(OH-
)の濃度をかけた値は一定となります。これを式(1)に示します。
水素イオン濃度×水酸化物イオン濃度=10-14mol/L
(1)
そしてpHの値は式(1)の水素イオン濃度のみを表しています。水素イオン濃度はたとえば10-2mol/L
、10-7mol/L
、10-12mol/L
のような値を取ります。このときの水酸化物イオン濃度は(1)式より自動的に決まります。そして、このままでは表記が複雑なので、それぞれ指数の数値だけを取り出してpH2、pH7、pH12として表します。これら水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度の関係を表1に示します。
表1より、中性は水素イオンと水酸化物イオンの濃度は等しくなり、酸性は水素イオンの濃度が高くなり、アルカリ性は水酸化物イオンの濃度が高くなることが分かります。
酸性の物質は塩酸、硝酸などの強酸の他にも酢酸のような弱酸もあります。名前に〇酸とつくものはおおよそ酸性です。アルカリ性は水酸化ナトリウムなどの強アルカリの他にもアンモニアのような弱アルカリがあります。また塩素系漂白剤などもアルカリ性です。
中性の水溶液中における鉄の腐食反応では、式(2)のようなカソード反応が起こります。
カソード反応(還元反応) O2+2H2O+4e-→4OH-
(2)
式(2)の反応は酸素が関係するため、酸素消費型の腐食と呼ばれます。中性の水溶液にも水素イオンは存在しますが、溶存酸素の方が量が多いため、腐食反応には酸素が大きく影響します。しかし、水溶液のpHが下がり、酸性が強くなると水溶液中の水素イオン濃度が増加します。そのときの腐食のカソード反応は酸素ではなく水素が大きく影響する式(3)が起こります。
カソード反応(還元反応) 4H++4e-→2H2
(3)
式(3)は水素発生型の腐食と呼ばれます。水溶液中の水素イオン濃度はpHが下がるほど多くなるので、pHが下がるほどカソード反応がたくさん起こります。そのため腐食速度も増加します。
金属の腐食とpHについて全体的に表した図として、電位-pH図(プルーベイ図)があります。これは縦軸に金属の電位、横軸にpHをとりグラフ化したものです。図1に鉄の電位-pH図を示します。
電位-pH図では各電位とpHにおいてどのようなことが起こるかを表しています。電位-pH図では大きく3つの領域があります。
1つ目は図1の下側の電位が低い領域では腐食されない①安定域。
2つ目は安定域の上側の酸性側には腐食される②腐食域。
3つ目は右上側のアルカリ性にある③不動態域です。
①安定域では化学的に金属の状態で安定するので、イオン化したり、腐食しなくなります。
②腐食域では金属ではなくイオンの状態で安定します。そのため、腐食域になると腐食反応が起こります。
③不動態域では表面に酸化物や水酸化物が形成されます。酸化物の緻密さなどによって状況は変わりますが、不動態域では腐食は起こりにくくなります。
また二つの点線については、上の点線より上側は酸素の発生する領域、二つの点線の間は水の安定域、下の点線より下側は水素の発生する領域となります。そして式(3)の水素発生型腐食は図1では、②腐食域の下側の領域となります。下側では鉄は水素によって腐食されます。
一方、鉄はアルカリ性ではFe3O4
、Fe2O3
などの酸化物が安定であり、③の領域は不動態域となります。そのため鉄はアルカリ環境では腐食に強いことを表しています。この性質を生かしたものに鉄筋コンクリートがあります。鉄筋コンクリートは鉄の引張強度とコンクリートの圧縮強度を持ち合わせています。その他にもコンクリートはアルカリ性なので、コンクリートの中の鉄は不動態域となり、腐食に強くなります。その結果、鉄筋コンクリートは強度だけでなく耐食性にも優れた材料となります。
鉄以外にもさまざまな金属の電位-pH図があります。たとえばアルミニウムの安定域は鉄の安定域の電位よりも低い電位です。そして、アルミニウムは酸性、アルカリ性のどちらにも腐食する性質があります。また銅の安定域は鉄の安定域よりも高く、広いpHにて水素発生電位よりも高いです。これらの電位-pH図を図2、図3に示します。
図1から図3より、イオン化傾向が大きく、標準電極電位が低い金属ほど安定域の電位が低く、反対にイオン化傾向が小さく、標準電極電位が高い金属ほど安定域の電位が高い傾向になります。
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福﨑 昌宏
2005年 千葉工業大学大学院 工学研究科 金属工学専攻を修了
2005年 金属加工メーカー 研究開発部に入社
2013年 建設機械メーカー 研究開発部に転職
2017年 技術士(金属部門)取得
2019年4月より独立開業 福崎技術士事務所開設
金属材料の破損・不具合に関する分析調査を専門とし、企業のコンサルやセミナー講演を行う。これまでに「マグネシウム合金の腐食」「屋根の腐食評価」「歯車など機械部品の疲労破壊の評価」「自動車部品破損の破面分析」「各種試作試料の材料分析試験」などがある。
書籍・執筆
『金属材料の疲労破壊・腐食の原因と対策』(2021)日刊工業新聞社
「機械設計」連載講座『金属材料の基礎と不具合調査の進め方』Vol.64,No.4~8(2020)日刊工業新聞社
「軽金属」Vol.55,No.9(2005)に『AZ91マグネシウム合金における腐食挙動とミクロ組織の関係』など