小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
二重結合を持つモノマーが、ラジカル重合反応でつながってできる高分子化合物で、モノマーが図1に示すようなアクリル酸(図1a)やメタクリル酸(図1b)および、そのエステル類(図1c~g)であるものをアクリル樹脂と呼びます。
代表的な(メタ)アクリルモノマー
メタクリル酸は、アクリル酸のカルボキシル基が結合している炭素原子に、さらにメチル基が結合したモノマーで、両者を総称して、(メタ)アクリル酸のように記載することがあります。また、メタクリル酸やそのエステルを含んでいても、単にアクリル樹脂と呼び、メタクリル樹脂とは呼びません。
ラジカル重合反応が進行するメカニズムを、簡単に図2を用いて説明します。
(メタ)アクリル酸系モノマーのラジカル重合反応
I:I ;ラジカル重合開始剤,R1;メチル基または水素,R2;アルキル基など
共有結合では原子が1個ずつ電子を出し合って、2個の電子を共有しています。このような電子の組を「共有電子対」と呼びます。
まず、ラジカル重合開始剤が熱で開裂してラジカル(I・)を発生します(図2a)。
ラジカルは、電子対を形成していない電子(「不対電子」)をもつ原子や分子のことです。他の原子や分子と共有電子対を形成しようとする非常に反応性に富んだ性質を持っています。
発生したラジカルは(メタ)アクリルモノマーの炭素原子C1と電子対を形成しようとして、図2bのように攻撃します。図2の矢印は電子の移動を示します。攻撃により、C1とC2の二重結合を構成する2組の共有結合の内、1組の共有結合が切断されます。このとき、切断された結合に関与していた共有電子対の一方の電子と、ラジカルの電子が新たに電子対を形成し、炭素原子C1とI-C1の共有結合が生じます。
同時に炭素原子C2では、相手がいなくなったもう一方の電子が、ラジカル電子となり、図2cのように、別のモノマーを攻撃します。攻撃されたモノマーは同様に反応して、次々と共有結合でモノマーがつながっていいきます。これがラジカル重合反応です。
図1に示したモノマーは、ほんの一例で、この他にも多くの種類があります。また、(メタ)アクリル樹脂は、スチレンやマレイン酸エステルなど、(メタ)アクリルモノマー以外の二重結合を持つモノマーを含む場合もあります。スチレンを含むものは、スチレン-アクリル樹脂と呼ばれることもあります。
分子量は、ラジカル重合開始剤の量や、重合温度などの反応条件で調整できます。
繊維でアクリルと言えば主成分モノマーはアクリロニトリルですし、プラスチックではメタクリル酸メチルが主成分とおおむね決まっています。一方、塗料用のアクリル樹脂は、さまざまなモノマーを組み合わせて合成されます。複数種類のモノマーを一緒に重合させることを、「共重合」と言います。
塗料用のアクリル樹脂はさまざまなモノマーを共重合させて合成されます。
共重合させるモノマーの組み合わせと分子量の調整で、溶解する溶剤の種類や、硬化反応の種類、粘度、諸耐久性能などで、非常にバリエーションに富んだ品種を作り分けることが可能です。
そのために、「塗料用のアクリル樹脂の特徴は……」と一言で語ることはできないのですが、基本的には、無色透明で、塗膜にした時の光沢、耐候性、耐水性、耐薬品性に優れています。ただし、スチレンを多く含むものは耐光性が不良で、黄変やクラックが生じることがあります。
(メタ)アクリルモノマーのカルボキシル基とエステル結合でくっついている官能基(「側鎖」と呼びます)の種類により、ガラス転移温度(Tg)<sup>*</sup>や溶解性を調整できます。例えば、側鎖が炭化水素であれば、側鎖が長いほどTgは低くなります。またSP値は小さくなり、低極性の溶剤への溶解性が増します。
側鎖が同じであれば、メタクリル酸エステルの方がアクリル酸エステルよりTgは高くなります。
側鎖にカルボキシル基(図1a, 1b)や水酸基(図1g)、エポキシ基(図1f)など二重結合以外の反応性官能基を持つモノマーを共重合させると、これらの官能基を持った樹脂ができます。
樹脂が水酸基を持てば、ポリイソシアネートを硬化剤とした2液型の常温硬化塗料に使用できます。また、メラミン樹脂やブロックイソシアネートを硬化剤とした1液型の焼付硬化塗料としても使用できます。
ガラス転移温度の高いアクリル樹脂は、乾燥すると硬い塗膜となりますので、ラッカータイプの熱可塑性塗料として使用されます。
ラジカル重合反応は水中でも進行するので、水に分散した状態(「エマルション」と呼びます)のアクリル樹脂を直接合成することができます。このような合成方法は、乳化重合法や懸濁重合法と呼ばれます。乳化重合法で得られたアクリル樹脂エマルジョンは水性建築塗料などに広く用いられています。
※ガラス転移温度
高分子は、温度が高いと柔らかいですが、温度が低下するに従って、徐々に硬くなりますが、ある温度を境目にして急激に硬くなります。ガラスのように固くなるので、この温度のことをガラス転移温度(Tg)と呼びます。
本記事に関するご質問・ご相談を受け付けております。 お問合せフォームよりお問い合わせください。