石川 敦雄
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
研究室の学生と話をしているときに、キャラクターの色の話になりました。そのキャラクターとは、「プリキュア」です。私自身は一度も見たことが無いので、学生から聞いた話になりますが、2023年2月からプリキュアシリーズの第20作である「ひろがるスカイ プリキュア」がスタートし、プリキュア史上初の「青色」のキャラクターが主人公となった<sup>1)</sup>ことで、それが話題となっていると話してくれました。
色に関わる研究をしている者として、ちょっと気になったので調べてみました。2004年に始まったプリキュアシリーズでは、主人公にイメージカラーが与えられてきました<sup>2)</sup>。第1作・第2作である「ふたりはプリキュア」「ふたりはプリキュア MaxHeart」では、2人の主人公に「白」と「黒」のイメージカラーが与えられましたが、それ以降の第19作までの中で、主人公のイメージカラーは圧倒的にピンク(16/17作品)でした。
そんな中で、第20作の主人公に「青」のイメージカラーが与えられた(プリキュアでは、青色のキャラクターのことを「青キュア」というらしいです)ので、ファンの皆さんには大きな衝撃だったようです。
今年度のプリキュア
昨年度のプリキュア
女性に対するステレオタイプ的な色使いとして「ピンク」が用いられるというジェンダー・バイアスについてはさまざまな先行研究があります。たとえば、幼児とその母親を対象とした調査研究では、「ピンク」の色選択に顕著な性差が確認され、親だけでなく幼児も「ピンク」に「女の子らしい」イメージを持っていることや、親は女児に対して「ピンク」を選択し、女児もこれを選好していることなどが明らかにされました<sup>3)</sup>。
また、キャラクターの色に関する先行研究としては、中学校の英語テキストの挿絵に登場する人物の服装の色として、女性において「ピンク」や「赤」が多く使用されていること<sup>4)</sup>、スーパー戦隊シリーズにおいて大部分の作品で、戦隊のメンバーである女性に「ピンク」が割り当てられていること<sup>5)</sup>などが報告されています。
このように「『ピンク』=女性」根強いジェンダー・バイアスがある中で、「プリキュア」の主人公に「青」が与えられたことは、ジェンダーニュートラルな社会に対する期待の高まりが、子ども向けのエンターテイメント作品にも反映された結果なのかなと思います。
このような色とジェンダーとの結び付きに関連して、認知心理学分野には面白い研究がいくつかあります。たとえば、着ている服の色が、ジェンダーに関する自己認知と他者認知に及ぼす影響を検証した研究があります<sup>6)</sup>。
この研究では、実験参加者(男性18名、女性21名)に「ピンク」もしくは「青」のパーカーを着てもらい、潜在的な自己認知や他者認知等が測定されました。実験の結果、「青」を着ている参加者に比較して「ピンク」を着ている参加者では、自己を潜在に「女性らしい」と感じていることが明らかにされました。また、ピンクの服を身に付けている場合には、他者である女性を「より男性的」と見なし、他者である男性にはこのような影響は確認されないことが示されました。結果として、この研究では、「ピンク」を着ることは、潜在的な自己に対しては「同化」的(近づく方向に変化)に、女性他者に対しては「対比」的(離れる方向に変化)な反応を生じると考察されています。
ピンクのパーカー
ジェンダーニュートラルな社会に対する期待が広がっていく中で、「青=男性」と「赤=女性」のジェンダー・バイアスもいつかは無くなってしまうのかもしれません。「色の象徴」が私たちのこころやふるまいに及ぼす影響については、さまざまな心理学的な知見が積み重ねられてきていますが、社会が大きく変化していく中で、これらの知見も併せてアップデートしていく必要があるのかなと思いました。
この記事の読者の皆さんの多くは大人の方だと思いますが、お子さんと一緒にテレビを見るときには、「このキャラクターはなんでこの色?」をちょっとだけ考えてみてください。きっと、新しい発見があると思います。
参考文献:
1)「ひろがるスカイ プリキュア」, 東映アニメーション.
https://www.toei-anim.co.jp/tv/precure/ (参照2023-04-24).
2)「プリキュアシリーズ 公式ポータル」, ABCアニメーション・東映アニメーション.
https://anime-precure.com/ (参照203-04-24).
3)清水隆子
(2003). 幼児の色彩選好と親のジェンダー意識, 早稲田大学大学院教育学研究科紀要, 11-1, 87-95.
4)伊藤明美 (2006). テキストに隠されたジェンダー・バイアス: 中学校の英語テキストを中心に, 藤女子大学紀要 第Ⅰ部, 43, 101-111.
5)葛城浩一(2008). ジェンダー的要素はどう描写されてきたのか: 「スーパー戦隊シリーズ」 を事例として, 子ども社会研究, 14, 3-16.
6)埴田健司, 石井国雄 (2020). ピンク・青の衣服がジェンダーに関連する自己認知と他者認知に及ぼす効果, 東京未来大学研究紀要, 14, 141-151.
本記事に関するご質問・ご相談を受け付けております。 お問合せフォームよりお問い合わせください。