小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
液体の粘度は、図1のようなモデルを使って考えることができます。
図-1 粘度のシートモデル
図1では、厚さ(深さ)dの液体を、面積Aの厚みが無視できるほど薄いシートが何枚も積み重なって構成されていると考えます。最表面のシートに力Fをかけると、移動(流動)します。この移動速度をvとします。最表面のシートが移動すると、それより下のシートも摩擦力(実際の液体では「粘性抵抗力」)が働くので、つられて移動しますが、その速さは下のシートになるほど遅くなり、最底面のシートは静止していると考えます。
これは回転粘度計に液体を入れて、ローターを回転させた状態に相当します。ローターと接している部分の液体が移動(回転)しますが、底面では液体は静止しています。
実際の川の流れを見ても、川面は速く流れていますが、川底はほとんど流れていませんし、川の中央は速く流れていても、川岸に近づくほど流れは遅くなるので、このモデルは妥当と考えてよいと思います。
図1に戻って考えます。最低面のシートは静止しているので、液体の厚さ方向に速度勾配(γ
= v/d)が生じることになります。この速度勾配のことを「ずり速度」と呼びます。ずり速度は「せん断速度」と呼ばれることもあります。
速度勾配を生じさせるために加えた力を単位面積当たりの値(σ =
F/A)にしたものを、ずり応力と呼びます。ずり応力は「せん断応力」と呼ばれることもあります。
粘度(η)は、ずり応力とずり速度の比(η = σ/γ)と定義されます。すなわち、粘度は液体をある速度で流し続けるために、加え続けなければならない力から導かれた値であり、液体の動き難さ・易さを示す指標ということができます。
塗料では、顔料やエマルション樹脂のような粒子状の成分が配合されており、これらの粒子は図2に示すように、粒子成分が比較的弱い力で凝集して、「フロキュレート」呼ばれる網目状の構造を形成することがあります。
図-2 フロキュレートの形成と塗料の流動性
フロキュレートには大きな力(ずり応力)が作用すると壊れてしまい、力がかからなくなると、また回復するという特徴があります。
図2に示すように、フロキュレートが生じている液体を流動させるには、図1で示した液体の粘性抵抗力に加えて、フロキュレートを壊す分の余分な力が必要です。この力が必要な分、粘度は大きくなります。
流動が始まるとフロキュレートは壊れるのですが、フロキュレートには回復するという性質があります。流動速度が遅い場合には、回復してくる構造を壊し続ける必要があります。すなわち、粘度の高い状態が継続します。
一方、流動速度が速い場合には、フロキュレートの回復が流動による破壊に追い付かなくなります。流動開始時には大きな力が必要ですが、いったん流動が始まってしまえば、以降は構造を壊す必要はないので、粘度は低くなります。
このように流動速度(厳密には、ずり速度)によって粘度が変化するような液体の流動挙動を「擬塑性流動」と呼びます。回転粘度計で粘度を測定すれば、回転数が少ない時には粘度が大きく、回転数が増加するほど粘度が低下します。
これに対し、流動速度に粘度が依存せず一定である場合には「ニュートン流動」と呼びます。一般的に、顔料を含まないクリアー塗料や樹脂ワニス、希釈シンナーなどはニュートン流動を示します。
ずり速度と、ずり応力や粘度との関係を示す曲線のことを「流動曲線」と呼びます。図3Aのaにニュートン流動、bに擬塑性流動の、ずり速度とずり応力の関係を、図3Bにはずり速度と粘度との関係を示します。
図-3 塗料で見られる流動曲線
塗料ではめったに見られませんが、つや消し塗料など、顔料の配合量が多い場合に、図3Bのcに示すように、流動速度が大きい程、粘度が高くなることがあります。これは「ダイラタント流動」と呼ばれます。粒子が密に充填されていると、粒子同士がお互いの場所を入れ替わらないと流動できなくなります。速く入れ替わろうとすればするほど粒子間の摩擦が大きいので、これに打ち勝つために大きな力が必要となり、粘度が高くなります。
現場ではポテポテとした塗料を指して「チキソ(トロピー)性が大きい。」とか言われることがあります。しかし、ポテポテとした流動性だけであれば、これは粘度にずり速度依存性があって、低ずり速度ほど粘度が高いので「擬塑性が大きい。」というのが正解です。
厳密には、粘度にずり(せん断)履歴依存性や時間依存性があることを「チキソトロピー」と呼びます。図3には「チキソトロピー」の流動曲線も示してあります。図3d横軸のずり速度を、回転粘度計のローター回転数と考えると、右向きの矢印が付いた曲線は、回転数を増加させながら測定した流動曲線で、ある回転数まで増加させた後、回転数を減少させながら測定したのが左向きの矢印がついた流動曲線です。
例えば、回転数を5、10、20、50、100rpmと増加させて粘度を測定し、100rpmの測定を終えたのちに50rpmに回転数を戻すと、先の50rpmの値よりも小さな値を示します。また、図では示せていませんが、100rpmで測定終了後すぐに50rpmでの測定をした時と、100rpmで測定後10分放置してから50rpmの測定をした場合でも、粘度の値が異なります。
これは、回転粘度計のローターの回転によって、フロキュレートが壊されるのですが、壊された後の構造回復に時間がかかるためです。図3dのような流動挙動を示す場合にチキソトロピーと呼びます。現実的には、擬塑性流動の塗料はほとんどチキソトロピーですので、両者を混同して用いても間違いではないのですが、言葉が指している現象が異なることは理解しておいてください。
塗料保管時の顔料の沈降防止や、塗装作業後のタレ防止のためには、塗料の粘度は高い方が好適です。溶剤の量を削減すると、塗料の粘度は増加しますが、それでは塗装時の粘度も高くなってしまい、スプレー塗装での微粒化が悪くなったり、ハケ塗装時のハケ裁きが重くなったりします。
都合が良いのは、塗装時には粘度が低く、保管時や塗装後には粘度が高いような粘度変化を塗料が示してくれることです。
塗料・塗装に関係する諸現象と、その現象に伴う塗料の変形や流動のずり速度を図4に示します。沈降やタレのずり速度は非常に遅く、10<sup>-3</sup>~10<sup>-2</sup>sec<sup>-1</sup>程度、刷毛塗りのせん断速度は10~10<sup>3</sup>程度、スプレー塗装では非常に速く10<sup>3</sup>~10<sup>5</sup>程度とされています。
図-4 塗料に関わる諸現象とそのずり速度
例えばスプレー塗装をする場合には、塗装時のガン先での塗液微粒化のためには粘度が低く、塗装後の垂直面でのタレ防止には粘度は高い方が良いので、ずり速度が10<sup>3</sup>~10<sup>5</sup> sec<sup>-1</sup>では低粘度、10<sup>-3</sup>~10<sup>-2</sup>sec<sup>-1</sup>では高粘度の流動性を示す塗料が適しています。
塗料を上記のような擬塑性流動にするために用いられるのが、「レオロジーコントロール剤」とか「チキソトロピー剤」と呼ばれる増粘剤の一種です。顔料をフロキュレートさせて擬塑性を持たせることも可能ですが、この場合、塗料の経時増粘や艶引け、ブツ発生などが生じるので、お勧めできません。
本記事に関するご質問・ご相談を受け付けております。 お問合せフォームよりお問い合わせください。