4.塗料が固まるメカニズム ①常温で固まる1液型バインダー樹脂
2022/10/04小林 敏勝
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
[現職] 小林分散技研 代表,東京理科大学理工学部客員教授
[専門] 粒子分散、コロイド・界面化学
[経歴] 1980年京都大学大学院工学研究科工業化学専攻修了、日本ペイント(株)入社。1993年京都大学博士(工学)。2010年東京理科大学客員教授、日本ペイント(株)退職。2011年小林分散技研設立。
常温で固まる塗料を「常乾塗料」と呼びます。常乾塗料には1液のものと、主剤と硬化剤からなる2液で使用前に混合するものがあります。ここでは、1液型について説明します。
1液の常乾塗料に使用されるバインダー樹脂は、さらに熱可塑型と熱硬化型に分類されます。両者の違いは固まる際に、バインダー樹脂分子同士の架橋反応が生じるか否かです。図1は塗料が塗装されて塗膜を形成する様子を示していますが、右側の塗膜中で、樹脂分子同士が「くっついている」状態と、「絡まっている」状態が熱可塑型に相当し、「架橋している」状態が熱硬化型に相当します。
図1 熱可逆性と熱硬化性のバインダーシステム
熱可塑型の樹脂は、溶剤の蒸発により、溶け拡がっていた樹脂分子がくっつき合うか、絡み合って膜になります。樹脂分子同士は架橋しません。このため、塗膜の耐溶剤性は不良です。また、加熱により塗膜は軟化して変形しやすくなります。
このような樹脂を用いた塗料は「ラッカー塗料」と呼びます。ラッカー塗料に使用される主な熱可塑型樹脂とその特徴、用途を表1に示します。
熱可塑型樹脂は、ガラス転移温度が高く、分子量が大きいため、扱いやすいように溶剤に溶解したワニスの形で供給されます。ワニス中の固形分濃度も他の樹脂ワニスに比べると低めです。従って、これらの樹脂を用いたラッカー塗料の固形分も低めとなります。
溶剤には、ナフサ、キシレン、トルエン、ケトン(メチルエチルケトン、アセトン)など、蒸発が早くて溶解力の強いものが使用されます。これらの溶剤は蒸発潜熱も大きいので、蒸発に伴って塗膜の温度が低下しやすく、夏場などの高温多湿時の塗装作業では、空気中の水分が塗膜中に凝縮して、「白化(Blushing)」と呼ばれる不良現象が生じることがあります。
熱硬化型樹脂は、樹脂分子に反応性官能基があり、塗装後に外気に触れることによって架橋反応が生じます。酸化重合型と湿気硬化型が代表的です。
空気中の酸素や水分と触れることによって架橋が進行します。このようなバインダー樹脂を用いた塗料では、使い残しを保管する際には、元の容器に戻すのではなく、残量に応じた小口の容器に移し替え、缶内の空気の量をできるだけ少なくすることが重要です。
酸化重合型
酸化重合型の樹脂は、二重結合の多い油(乾性油)で変性された樹脂で、長油もしくは中油のアルキド樹脂が代表的です。良好な外観が得られ、耐久性もあります。古くから工業用塗料や金属用塗料、錆(さび)止め塗料などに用いられており、「フタル酸樹脂」とも呼ばれています。
他にも油変性ポリウレタン樹脂やアクリル変性アルキド樹脂などがあり、それぞれウレタン樹脂の強靭性や、アクリル樹脂の耐候性が付与されています。建築用塗料、建設機械用塗料等に使用されます。
酸化重合機構を図2に示します。
図2 乾性油の酸化重合機構
乾性油(リノール酸やリノレイン酸)に含まれる二重結合の中間に存在するメチレン基(活性メチレン基)が、酸素の攻撃を受けて過酸化物となります。生成した過酸化物は分解してラジカルになり、他の樹脂分子中の二重結合や活性メチレン基と反応して架橋します。
これらの反応は、あらかじめ添加するドライヤーの働きによって進行します。ドライヤーは金属せっけんの一種で、ナフテン酸コバルトが代表例です。ドライヤーは、活性メチレン基の水素引き抜きと、生成した過酸化物の分解を促進します。乾燥時間は油長、ドライヤー種、温度などに依存しますが、5時間~1日程度です。
湿気硬化型
湿気硬化型樹脂は、低分子の多価アルコールの水酸基(-OH)と2官能イソシアネート(-NCO)を、NCO/OH>1の条件で反応させ、末端に未反応のNCO基を残したポリウレタン樹脂です。
図3に示すスキームのように、塗装後、空気中の水分と未反応のNCO基が反応し、尿素結合で樹脂分子間に架橋が生じます。
図3 湿気硬化ポリウレタン樹脂の架橋反応
湿度や温度が高いほど硬化反応が早く、強靭で耐摩耗性に優れた塗膜を形成します。水分に敏感なので、塗料中の水分除去や顔料による不純物の持ち込みに注意が必要です。ポリウレタン樹脂ですから、強靭で耐摩耗性に優れており、床用塗料などに用いられます。
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