石川 敦雄
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
京都府立大学大学院生命環境科学研究科、准教授。博士(教育学)。専門は,環境心理学,認知心理学。Embodied cognition(身体化された認知)と呼ばれる潜在的な影響過程に関心を持っている。著書に『生命に学ぶ建築』(共著、日本建築学会編、建築資料研究社、2018)。
私たちは、日々の生活の中で、さまざまな「色」に囲まれて暮らしています。
食事の彩り、服装の色、コンビニで購入しようと手に取った飲料のパッケージの色、相手の顔色、アクセスしたホームページの背景色、……。例を挙げればキリがありませんが、この1つ1つの「色」が私たちに何らかの影響を与えています。
また、服と靴とで色をコーディネートするときのように、意識して「色」と向き合うだけでなく、植物の緑やインテリアの壁紙の色といった積極的に意識を向けていない「色」からもさまざまな影響を受けていることが、さまざまな研究を通じて明らかになってきています。
「私たちを取り囲む色」シリーズでは、そんな色のもつ力を、さまざまな角度から取り上げていきたいと考えています。このシリーズが、皆さんにとって「色」を上手に活かすヒントになることを期待しています。
第1回である今回は、「色」にまつわる驚きの研究成果を1つ紹介したいと思います。
ダラム大学(英国)の研究者であるヒル氏とバートン氏がネイチャーに発表した論文では、身体接触を伴う競技の成績において、選手が身につけているウェアの色が影響を与えていることが明らかにされました<sup>1)</sup>。
この論文の中でヒル氏とバートン氏は、2004年に開催されたアテネオリンピック(五輪)で実施された身体接触を伴う4種類の競技の試合結果を調べました。4種類の競技は、レスリングのグレコローマンスタイルとフリースタイル、ボクシング、テコンドーです。アテネオリンピックのこれらの競技に参加した選手は、対戦するごとに無作為に「赤」もしくは「青」のウェアが割り当てられて、その「色」のウェアを身につけてそれぞれの競技に臨みました。
「色」の影響が無いとすれば、「赤」と「青」の勝率に差はないはずですが、この研究では、4種類の競技全てで、「赤」の勝率が「青」を上回っていることが明らかになりました。
この結果について、ヒル氏とバートン氏は、進化心理学で説明できると考察しています。
この過程については、必ずしも結論が出ているわけではありませんが、例えば次のように説明できると思います。ヒトは何か重大な危険に遭遇したときに、その場から逃げるか(逃走)、その危険の元に立ち向かうか(闘争)のいずれかで反応する(闘争・逃走反応)ことが知られています。
「赤」という色は、ヒトが進化の過程で獲得した「危険」のシグナルですので、対戦相手が無意識のうちに「逃走」しようとするということかもしれません。「赤」は男性ホルモンの1種であるテストステロンの分泌に関与し筋力の発揮を強める<sup>2)</sup>ことが指摘されていますので、「赤」のウェアを着ている選手の「闘争」を刺激しているとも考えられます。
Martin Rulsch, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0
また、「赤」がスポーツで有利に働くということについては、オリンピック競技だけでなく、イングランドのサッカーチームの成績でも確認されています<sup>3)</sup>。
皆さんは、この結果をどのように受け取りますか?
もちろんこの研究だけですべてが明らかになったわけではありませんし、これらの結果を反証するような報告もあります。このような感じで「色」はとても奥深く、研究者としての興味も尽きることはありません。
このシリーズでは、研究者の立場から、わたしたちを取り囲む「色」について、さまざま視点で考えていきたいと思います。
参考文献:
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