「塗料」の歴史は漆塗りに始まり、縄文時代早期までさかのぼると言われています。ヨーロッパなどの先史時代の洞窟壁画を挙げる人もいますが、これに用いられている画材は、インクや絵の具の祖先と考えた方が良いでしょう。
塗料はインクや絵の具と、見た目はよく似ていて、主な構成成分も樹脂(獣脂)、顔料、溶剤という点では同じです。ちなみに、塗料はよく「ペンキ」と呼ばれますが、これはオランダ語の「pek」が語源で、英語では「ペイント(paint)」です。表1で、塗料をインクと絵の具を比較してみました。
塗料がインクや絵の具と違うのは、使用時の役割(機能)と塗工のされ方です。
塗料の基本的な機能は古くから「保護」と「美観」とされてきました。塗料とは、塗られた物(「被塗物」と呼びます)が錆や腐食、紫外線、風化、などによって劣化することを防止します。この作用を「保護」と呼びます。また、塗料は被塗物の表面に色やツヤ、光輝感などを付けることで、見た目を美しくします。この作用を「美観の付与」と言います。
つまり、塗料はそれだけが単独で機能を発現するわけではありません。自動車や家電製品、船、橋りょう、家、ビルディングなどいろいろな製品に塗布することで、被塗物(製品)を劣化環境から保護し、見た目の美しさを付与することで初めて役に立つということです。被塗物があくまで主役であって、塗料はその引き立て役と言っても良いかもしれません。
一方、インクや絵の具は、そのもので描かれた字や絵、パターンが、情報の伝達や保存、感情の表現などの機能を直接果たします。塗料が被塗物の広い部分に均一かつ一様に塗布されるのに対し、インクや絵の具は基材の一部分だけに線や模様、像を印すという違いもあります。
このような意味から、木製の弓やくしに塗装された漆が「最古の塗料」で、洞口壁画の画材は「最古のインクもしくは絵の具」と考えられます。
被塗物の劣化要因
被塗物の材質の違いによって、使用される塗料はさまざまですが、付与する美観についてはおおむね共通しています。一方、保護に関しては基材によって対象とする劣化要因が異なります。
表2に被塗物の材質と劣化現象および劣化の要因を示します。
被塗物が金属の場合には、主な劣化現象は錆(さび)の発生であり、塗膜は錆の原因物質である水や酸素、腐食物質の透過を抑制するとともに、塗膜下を錆の生じ難い雰囲気に保ち、仮に腐食が発生してもその広がりを防止する働きをします。
コンクリートなどで生じる「アルカリ骨材反応」は、含まれるアルカリ性物質の水溶液が骨材(砂利や砂)の特定成分と反応し、異常膨張やそれに伴うひび割れなどを引き起こす現象です。凍害は浸透した水分が冬期に凍ることにより体積が膨張してひび割れなどが生じる現象で、いずれも塗膜が水分の浸透を抑制することで防止できます。
中性化と塩害は、コンクリートそのものではなく、内部の鉄筋が腐食して、全体の強度が低下する現象です。一般にアルカリ雰囲気では鉄は錆びにくく、コンクリートはアルカリ性ですので錆が抑制されているのですが、空気中の二酸化炭素(酸性)が内部へ浸透してアルカリ成分を中和して鉄が錆びやすくなります。これが中性化です。海岸近くの構造物で、潮風に海水が運ばれたりして、コンクリート内部に塩分が浸透しても、錆が発生しやすくなります。これが塩害です。塗膜はこれらの要因物質の浸透を抑制します。
プラスチックは、アクリルやPET(ポリエチレンテレフタレート)などの高分子化合物の総称です。屋外で使用される際に、太陽光に含まれる紫外線の作用により、高分子を形成している化学結合が切断されます。その結果、プラスチックは脆くなったり、切断されて分子量が小さくなり降水などで洗い流されてフィラーが露出して粉を吹いたような状態(白化)になることがあります。
木材にはリグニンやセルロースなどの高分子成分が多く含まれていますが、主に屋外で使用される場合には、プラスチック同様に紫外線によって劣化するほか、「木材腐朽菌」によって分解されたり、虫による食害や風雨による損傷を受けたりします。塗料は、これらの劣化要因が被塗物へ到達するのを防止したり抑制したりします。被塗物表面への作用も軽減します。
高機能塗料と機能性塗料
最近、塗料の展示会などで「高機能塗料」や「機能性塗料」という言葉を耳にすることが増えました。高機能塗料とは、「保護と美観の基本的な機能をさらに進化させた塗料」のことであり、例えば有害重金属を含有せずに、錆の発生を抑制する期間を大幅に延ばした「防錆塗料」や、メッキと同様の高度な金属調外観を示す「メタリック塗料」などが該当します。
一方、「保護と美観という目的」に加えて、新しい別の機能を付加した塗料を総称して、「機能性塗料」と呼びます。表3にこれまでに登場した(開発中を含む)主な機能性塗料について、付加された機能の例を示します。
これらの塗料は、例えば「耐熱塗料」のように付加された機能に塗料を付けて呼ばれます。
機能性塗料については、回をあらためて、表3の機能分類ごとに解説する予定です。
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